191. 識者フランソワーヌ ②
「残念ながら殆ど知りません。こちらに来る際に、獅子国に立ち寄ったのですがかなり酷い状態でしたので。それがヴァンパイアの仕業だと噂が流れていました」
「実際には、ヴァンパイアではなく闇ギルドがマタタビを撒いたせいなんだけどね。まあ、奴らの中にヴァンパイアがいたことは事実だけれど」
「そうですか。セイガ様は実際にヴァンパイアにお会いになったことが・・・」
「お会いになったどころかそいつらと戦って来たのは僕らなんだよ。獅子国ばかりでなく、竜人国でも」
「竜人国?すみません、結界が張られていて情報が得られませんでした」
「その結界を張らせたのは僕達なんだ。獅子国と同じようにアヘンという薬がばら撒かれ、皆、おかしくなったんだ。更に、恐ろしいことに竜騎士をヴァンパイアに変化させようとしていた」
「竜騎士をヴァンパイアに変化?」
「そう。彼らは相手の血を吸って代わりに自分の血を入れるんだ。そうすると入れられた者はヴァンパイアに変化する。ついこの前も熊族の者がその被害にあったんだ。一度変化したら、もう治す手立てがない。消滅させるしかないんだよ」
「じゃあ、我々エルフも襲われて血を吸われ、そして彼らの血を体内にいれたら・・」
「そう、ヴァンパイアに変化する。そして変化した者は身体能力が異常に高くなり夜目が効くようになる。そして常に、他者の血を欲するようになる」
識者フランソワーヌは身を震わせて「恐ろしい」と呟いた。
「しかも彼らは不死身だ。槍で突こうが剣で斬ろうが死なない。唯一、対処できるのは聖魔法だけなんだ。だからアレクは賢者と共に聖剣を作りに行っている」
室内は奇妙な沈黙が落ちた。精霊達が書く音だけがさらさらと聞こえてくる。
廊下を歩く音がしていきなり部屋のドアが開いた。
「ロン、セイガ、手伝い終わったよ」
エルが入って来た。が彼女は室内に入るやいなや固まった。そこに二人のエルフと精霊がいたからだ。
「あ、すみません。部屋を間違えて・・」
「エル、間違ってないよ」とセイガが椅子から飛び降りてエルを迎える。
「この二人はね、僕のお客さんなんだ」とセイガが言うと、二人は立ち上がって挨拶をした。
「私はフランソワーヌ、そして妻のフリージアです。聖女様」
二人が優雅にお辞儀をするとエルも「エルと申します。セイガとロンと旅をしています」と返した。そしてテーブルに何もないのを見て、「あ、私、お茶を持ってきますね」と言ってそそくさと部屋を出て行った。
「すごくきれいな人だね、フリージア」
「ええ、本当に。でも、どこか幼いような」
「エルはね、まだ12歳なんだ。突然成長して大きくなったから心と体がアンバランスなんだ」