190. 識者フランソワーヌ ①
セイガとロンは心地よいリュートの調べと歌声にまどろんでいた。はっと気付くともう観客達は出払っていて彼らだけになっていた。当然、ロンのインヴィジブルの結界も解かれていてセイガは子オオカミの姿で辺りを見廻した。
「お目が覚めましたか」ひどく心地よい声音が頭上で響く。そこには二人のエルフ、フランソワーヌとフリージアがいた。
セイガは起き上がり、ロンをつついて起こした。
「こんな所で貴方様に会えるとは思いませんでした。神狼様」
「僕を知っているんだね」
「勿論です、神狼様。それに竜人族の王子もいらっしゃるとは」
「キュイ」(僕もしってるの?)
「私は仲間内から『識者フランソワーヌ』と呼ばれていますから。里から出ない仲間達へ各国を巡り情報を届けているんです」と彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「識者フランソワーヌというのは僕の記憶では聞き覚えがある」
「先代の神狼様には良くして頂きました。ところで、貴方様が結界を越えてこちら側に来た経緯なども聞かせて頂けたら・・・と」
「う~ん、宿に行って話すよ。付いて来て」とセイガとロンは再び人間型を取り、彼らと共に宿へ向かった。
宿に着き、すぐに部屋に向かう。宿の者達は美形のエルフ二人が彼らに付いて行くのを興味深そうに見送った。
部屋に入り、変身を解いた二人はエルフ達に椅子を勧めた。
「僕はね、今はセイガという名があるんだ。それに、こっちはロン」
「それではお二方ともどなたかと契約なされたと?」
「うん、そう。僕はアレクという人間と。ロンはエルという聖女とね」
「それはまた・・」
「僕らは結界の向こう側で出会ったんだ」とセイガは出会った経緯を話した。
「するとアレクという人物は人間なのにも関わらず、魔法が使えると?それにエルという少女はユークリッド王国の隠された姫君で聖女ということですね。生まれてから500年、一度も目を覚まさなかった赤子が彼女ということか。さらにそのユークリッド王国は最近、聖ピウス皇国に滅ぼされた。そう言えば、聖ピウス皇国がおこした事件にまつわる話でヴァンパイアという種族がからんでいるということが聞こえてきていましたが、これは面白い」
識者フランソワーヌと妻のフリージアは興味深そうに聞いている。その側で妖精達がせっせと大きな紙に何か書いていた。
「ところで君達はヴァンパイアのことをどれくらい知っている?」