19.ペンダントの記憶 ⑪
シン達を乗せた荷馬車はほどなく城門前の検問所についた。
「領都から薬草をもらいにきたぜ」
「ヨハン、ひさしぶりだな。そっちの二人は?」
「ああ、俺の護衛だ。この辺りは物騒だからな」
「お前に護衛か?まあいい。通れ」
城門をくぐり村に入った。確かに街というには小さいがそれでも生活に必要な店が所々点在している。
「まず、宿を決めようぜ。俺が常宿にしてる『山芋亭』ってえのがお勧めだぜ。飯がうまい」
「うん、任せるよ」
「じゃあ決まりだ。そこの角を曲がった先にある」
「いらっしゃい、あらヨハン、久しぶりね」
「よう、アンナ。俺とこの二人,二部屋頼む。二泊な」
「あんたに連れなんて珍しいね。野盗騒ぎで部屋は全部空いてるよ。好きな部屋にしな」
「サンキュー、あと荷馬車を厩に入れたから馬の世話頼む」
「もうすぐ昼時だけど、食べてくかい」
「ああ、じゃそれも頼む」
「あいよ」
ヨハンとシン達は2階へ上がっていき隣同士の部屋にした。
部屋はこざっぱりとしていて、ベッド2つの他に机と2脚に椅子があった。窓を開けると、早春の風がゆるやかに吹き込んでくる。ユイはベッドに座り伸びをした。
「ああ、風が気持ちいい。荷馬車にずっと揺られていたから体が凝り固まっちゃったわ」
「ふふふ、ユイは荷馬車に乗るのは始めてかい?」
「荷馬車くらい乗ったことあるわよ。ただ、ずいぶん昔だってだけで」
ドアがノックされヨハンが入ってくる。
「くつろいでいるとこ悪いな。そろそろ飯ができるころだ。下に降りようぜ」
下に降りて食堂のテーブルにつくとすぐに料理が運ばれてきた。周りをみるとけっこうな数の客が料理をたべていた。
「ここの料理は人気があるんだ。宿屋っていうより料理屋の方が本業だな」
「ん、おいしそうだな。あれ、このスパイシーな味は。胡椒があるのかい?」
「胡椒?ていうのは知らないが、ここは薬草の群生地だと言ったろう?いろんなハーブが採れるのさ。だからここの料理は領都の料理よりも何倍もうまいのさ」
「そういえば男爵に伝手があるって言ってたよね」
「ああ、ここの薬草を一手に引き受けている『マラド商会』というのが男爵様やっていなさる商会なんだ。俺は領都から依頼を受けてよく薬草を買い付けに来ていたから顔見知りなんだよ。昼飯食ったら早速行こうぜ」