189. セイガとロンの小冒険 ②
うさんくささ丸出しのその男を見て、セイガとロンは目を見交わす。
「おじさん、何か用?」とセイガが言うと、その男はニヤニヤ笑いを深めて
「いやなに、人間の子なんて珍しいからさ。美味しい食事でも一緒にどうだい。おじさんが奢るから」
「ええー、でも知らない人に付いて行っちゃダメといわれてるし」
「おじさんはね、子供が大好きなんだよ。特に君達のように可愛い子がね」
セイガとロンが逃げようと辺りを見廻すと、柄の悪い連中に取り囲まれている事に気付いた。
「大人しくしていた方が身のためだよ」
一斉に柄の悪い連中がセイガ達を捕まえようとしたその時、「何をしている!」という声が掛かった。見ると警備隊が柄の悪い連中を取り押さえている。そのすきに、セイガとロンは人混みに消えた。
「ふう~、危なかった」とセイガは振り返り安堵の吐息を漏らす。
「この僕が人攫いに攫われるなんて笑い話にもならないよ」
「ねえ、あっちの方に行ってみない?」とロンが指さす方へ目を向ける。そこには大きなテントが張ってあり人だかりが出来ていた。人混みをかき分けて前に行くと、テントの入り口に行列が出来ていた。
「何かの催しかな。取り敢えず、中に入ってみよう。ロン、お願い」
ロンは自分達の周りにインヴィジブルの結界を張り、彼らはこっそりテントの中に入った。
中は沢山の人がいて中央に舞台があった。観客は今か今かと開演を待ちわびているようだ。ロンとセイガは舞台の見える丁度いい場所で座った。
一際高い歓声があがり、二人のエルフがリュートを持って舞台に出てきた。
「おい、ロン、エルフだ」ロンもビックリして頷いた。
「ご来場の皆さん、今日は僕らの舞台を見に来てくれてありがとう。僕はフランソワーヌで彼女が妻のフリージアだ。今日の演目は『獣王国建国記』だ。じっくりと聞いてってくれ」
彼と妻の演奏が始まる。ボロンボロンと奏でられるその音はうっとりするほど素晴らしい。そして彼は語り出す。
『遠い、遠い昔、ハーフリングという種族がありました。身の丈はエルフの半分、けれど聡明さは群を抜いておりました。フラワーヒルという王国を建て幸せに暮らしていたのです。そこはこの世の天国ともいわれるくらい美しい花と緑と湖水に囲まれた美しい国でした。豊穣な大地には作物がよく実り彼らは飢えを知らず健康で長寿を謳歌しておりました。王は人民を愛し、人民も王を愛しておりました。そこに一人の旅の僧が来て王に告げたのです。この国はもうすぐ終わると。恐れおののいた王は僧に問いかけます。どうしたらこの国を救えるのかと』
そこでリュートが激しくかき鳴らされた。観客は息を飲む。
『魔王国から持ち込まれる魔石に命を吹き込み新しい生命を生み出せと』