188. セイガとロンの小冒険 ①
ジル達は中央広場にほど近い大きな宿に泊まっていた。
「ちょっとサンガ、場所取りに行ってきて。いよいよベアトリス女王が獣王国の王に戴冠するってんで街の中はすごい噂だよ」
「もうしてるよ。セイガ様と一緒に来たと言ったら役人が一番良い場所を選んでくれた」
「流石、セイガ様だね。こうしちゃいられない。店の準備をはじめなくちゃ」
ジルはサンガと共に店の準備に大わらわだ。現地で雇った売り子達も忙しそうに働いている。そこへサンギが馬車で乗り付けた。
「ジル姉さん!」という声に振り向けば、エルが立っていた。
「エルじゃないか。元気そうで何よりだよ。アレクはどうした?」
「アレクは賢者様と聖剣を作りに行ったわ」
「賢者様って、賢者シリウス様?」
「そう。いろいろあって聖剣が必要になったから聖剣を作りに行ってる」
「あの、聖ピウス皇国から来た二人は?」
「ああ、女王陛下の下で勉強に励んでいる」
「なるほどね。エルはお城にいなくていいのかい」
「うん。ジル姉さんを手伝おうと思って。忙しいでしょう?」
「ああ。それじゃ手伝ってくれるかい?取り敢えず、そこの棚に商品を並べてくれるかい?」
「任せて」
エルは喜々として働き始める。
それを見ながらサンギは馬車を宿の方へ廻した。セイガとロンは人間型に変身してサンギに続いて宿に入った。
「セイガ様、ロン様、お部屋はエルさんと同部屋になりますが」
「うん、構わないよ」
「では私は義姉の手伝いをして参ります」と言ってサンギは静かに部屋を出て行った。
セイガとロンは変身を解いて元の姿に戻る。
「キュイ、キュキュキュイ」(何でセイガはアレクと行かなかったの)
「いやあ、アレク達が行こうとしてた所はドワーフの里だろ?あれ、オオカミ族の縄張りの近くなんだ。何にも言わずに出てきちゃったから、バレたら大目玉くらうと思って」
「キュイ、キューイ」(何だ、そんな事だったのか)
「そんな事ってなんだよ。長老は怒るとすげー怖いんだ」
「キュイ、キュイキュイキューイ」(それより街の中、探索してみない」
「いいね、どんな屋台が出ているかも知りたいし」
早速2匹、いや二人は変身し宿を出た。特に彼らを止める者はいない。少年二人は街の中心部へ向かって歩いていった。
「ちょっと、君達」呼び止められて、後ろを振り向いた。そこにはでっぷりと太ったやけに目立つ格好をした男がニヤニヤして立っていた。
「君達は人間族の子供か?めずらしい。それに美しいな」