181. ヤガの怪異 ①
「それでは、僕らはヤガへ行ってくるよ」
「もう行かれますか」
「不安は早めに払拭しないと。アレク、エル魔方陣に入って」シリウスが杖を高く持ち上げる。
「僕らも行くよ」「キュイ」とセイガとロンも慌てて魔方陣に入る。
「では行ってくる」
魔方陣が回り出した。
目を開くとそこはライド伯爵邸の玄関ホールだった。
玄関の掃除をしていたメイドがびっくりして腰を抜かした。
「ひいっ」
「ああ、ごめん、ごめん、大丈夫かい?」シリウスはメイドの手を取って立たせた。
「は、はい、あのう貴方様は・・・」メイドはいぶかしげにシリウスを見る。
「僕はシリウス。悪いがライド伯爵を呼んで貰えるか」
そこへ騒ぎを聞きつけた家令のチザンが現れた。
「なんと神狼様と皆様ではございませんか。それと・・」
「僕はシリウス。賢者とも呼ばれているな」
家令は途端に跪いた。「賢者シリウス様。何か我が主にありましたでしょうか」
「ああ、説明するからライド伯爵を呼んで来てくれる」
「では、こちらでお待ちください」と居間に通された。
「賢者シリウス様、我が家に起こしになるとは何かありましたでしょうか」
ライド伯爵は慌てて来たのか髪が乱れていた。
「ごめん、ごめん。早急に対処しなければななくてね。ヤガで妙な病気が流行ってないか?」
「そういえば、奇妙な死に方をした者がいると報告が」
「どんな死に方だ?」
「何でも体中の水分がなくなり干からびてミイラのようになっていると」
シリウスとアレクは目を見交わした。「実は・・」とシリウスが闇ギルドの三人の事を話し出す。
「それで彼らは、サリタ通りの小間物屋の夫婦をその化け物に改変したということだ。事件が起こったのもその辺りではないか?」
「おお、なんということ!はい、サリタ通りで起こっています。それで小間物屋夫婦は治るのでしょうか?」
「残念ながら治す方法はない。しかも生かしておくにはリスクが高すぎる」
「そうでしたか。分かりました、処分いたしましょう」
「ただ、その化け物は斬っても死なぬ。聖魔法で無ければな」
「では賢者様達にお願いしても?」
「そのために来た。小間物屋が消えても問題ないようにして貰えるか」
「分かりました。それで、いつ処分しに?」
「夜間の方が良いだろう。今夜決行する。それまで休ませて貰えるか?」
日没まで数刻というところ。サリタ通りは人通りが途絶えていた。ここのところの物騒な出来事によって夜間にここを通る人はいない。小間物屋夫婦は店仕舞いをしながら今夜の獲物を考えていた。
「ねえ、ちょっと遠出をしてみない。近場でやると客足に響くし」
「そうだな。中央通りにでも行こうか」
「そうね。あそこなら夜店も出ているし路地裏でやれば見つからないと思う」
「じゃあ、さっさと店仕舞いしよう」
二人はいそいそと店仕舞いを急いだ。