180. 獣王国の新しい王
「はてさて、すごいもんだな。聖女の力は」
「そんな。私なんて」
「いや、僕らではこういう風にいかない。自白する前に自害してしまうだろうし」
「さて、こいつらをどうしたもんか」とシリウスはベアトリスを見た。
「賢者様、この者達は牢に繋いでおくことは出来ないのですか」
「それは危険すぎる。女王陛下はヴァンパイアのことはご存じないのですか」
とアレクが問いかけると、ベアトリスは首を傾げて
「ヴァンパイア?」と聞いた。
「ヴァンパイアとは人間とは全く異なり、血を吸って死にかけた者に己の血を与え仲間を増やします。先程、エルが『創った』と申しましたがそのようにして創られた者達は、血を分け与えた者に絶対の忠誠を誓います。更に、身体能力が非常に高く、ある者はコウモリに変身することができます」
「そのような種族は聞いたことがないぞ」
「勿論、聖ピウス皇国に秘匿されています」
「であれば、そのような危険な者を牢に入れることは出来ぬか。賢者様、私はここで処分しようと思いますが、いかが」
「まあ、それが順当だろう」
女王は兵士達に合図をし、彼らは三人を斬った。と思ったが彼らはうめき声を上げ、地に伏せたが暫くすると起き上がった。もう一度、同じように斬ったが、同じことだった。
「奴らは不死か?」と女王は驚嘆の声を上げる。
「ヴァンパイアはただ単に斬っても死にません。聖魔法で斬るか聖魔法の掛かった武器で斬るしか方法はありません」
「聖魔法・・賢者様」ベアトリスは助けを請うようにシリウスを見た。
「僕よりアレクの方が得意だろう」とシリウスはアレクを見る。
「じゃあ、私が」とアレクは聖魔法を剣に纏わせ、三人を斬った。
途端に斬ったところから灰になり、体は崩れ始め、灰の山となった。
「お見事!」シリウスは満面の笑みでアレクを迎えた。女王達は唖然とした表情でアレクを見ている。
「ベアトリス、アレクは人間だが魔法使いだ。それも強力な聖魔法のね」
「そうでしたか。ありがとうございます。でもこれからどうしたら。アレク様が聖魔法使いだというのはわかりましたが、この先ずっとこの国にいて頂く訳にも参りますまい」
「心配するな。聖魔法が掛かった武器を僕とアレクで作ってやる」
「お願いできますか。そうすればこの国もヴァンパイアの恐怖から免れます」
「承知いたしました」と言ってアレクは頭を下げた。
「神狼様、アレク様達をこの国にお連れ下さいまして本当にありがとうございます。このまま事態が進み、取り返しが付かなくなるところでした」
「うん、これもベアトリスが頑張って政をしてきたおかげだよ。じゃあ、次の獣王国の王位もベアトリスに決まりだな」とセイガが言うと、シリウスも「僕もそれが良いと思う」と同意した。
ここに獣王国の新たな王が誕生したのだった。