176. ベアレス
アレク一行は翌朝早くにリーゼ村を発った。村長以下村人は厄災を絶ったアレク達に感謝し総出での見送りとなった。
ベアレスは熊国の首都ではあるが、この世界では珍しく城壁には囲われておらず街の周囲は鬱蒼とした森林に囲われていた。 この森はベアレスの森、又は賢者の森とも呼ばれ結界が張られているのか魔獣や魔物を寄せ付けなかったため、人々は怯える事無くベアレスで暮らしていた。
その森を貫く一本道を馬車は軽快に走っていく。
「この分だと昼過ぎにはベアレスに到着しそうですね」
「そうか。それにしても見事な木立だな」森を見廻しながらアレクは呟いた。
「熊国の主要産業は木材ですから。ここの木材は非常に高値で取引されます」
森のどこからかカーンカーンという斧の音が響き渡っている。
「熊族は身体強化魔法を得意としているので木こりが多いのです」
前を行くマドラス隊長がそういった。
「成程、木材を扱うのにはうってつけですね」
やがて、前方に巨大な門が見えてきた。
「ようこそベアレスへ」 門を守っていた兵士が一斉におじぎをする。
アレク一行は門をくぐり市中に入る。
「実はここベアレスの森には賢者様が住んでいらして、結界を張って外部からよろしくない物が入らないよう目を光らせているのです」
マドラス隊長はどこか得意気に話をした。
「うん、賢者シリウスだよね。懐かしいなあ。僕の記憶の中にも彼はいるよ」とセイガは嬉しそうに言った。
ベアレスの街は大半が木造で出来ており2階建ての家が軒を連ねていた。高い建物はなく、火の見櫓だろう建物がそこかしこに設置してあった。通りの幅は広く、恐らく、火災があったときの為と思われた。
物珍しげに周りを見渡しながら進むと、木造ながらも大きな建物群が見えてきた。恐らく、ここがベアレスの中心地だろう。その先の丘の上に城が見えた。
女王の執務室に文官が慌てて飛び込んできた。
「陛下、大変です」
「落ち着きなさい。どうしたのです?」
「賢者様が、賢者様が見えられました」という間もなく背後のドアが開いた。
「やあ、ベアトリス、元気だったかい?」
女王は慌てて立ち上がり礼をした。「賢者様」
「突然、来てしまって済まないね。懐かしい友人が来ると聞いてつい来てしまった」
「そうでしたか」
「それに、彼はいろいろ面白い仲間を連れてきているようだし」
とくくくっと笑った。
「会うのが楽しみだ」