17.ペンダントの記憶 ⑨
月明かりに照らされた真夜中の街道に現れた二つの影、シンとユイは迷い無く野盗のアジトへと向かっていた。
「ねえ、ユイ。今日は満月だし、サイコーに気分がいいね。さあお前達、思いっ切り楽しんでおいで」
シンがそう言って空間の扉を開けると一斉に黒い塊が空に舞い上がった。
ラザンは朝から機嫌が悪かった。獲物を狙うにも街道には人っ子一人通らない。
「おい、ダフ、てめえこっちの街道の方が見入りがいいとか言ってたな。3日前にショボい隊商が通っただけだろうが、ああん?どうすんだよ。このままじゃ干からびてしまうぞ」
「はあ、でもお頭、領都でいくつかの隊商が男爵領に向かうってえのをとある筋からききやしたんで」
「ガセじゃねえだろうな。明日来なかったら元のアジトに戻るからな」とへらへらしているダフを睨み付けながら酒をあおった。
なんだか胸の辺りがザワザワする。こういうときは良くないことが起きるのを長い盗賊生活で知っていた。
夜半すぎ突然、静寂がやぶられた。『キーキーキー』、コウモリの大群が押し寄せてきたのだ。
「おいっ、どうした」
「お頭、コウモリです。コウモリが大量に押し寄せてきます。ああっ、痛てえ。こいつっ血吸いコウモリだ」
「何だと、どうなってやがる」周りを飛び回るコウモリを切り伏せていると、目の前に突然男が姿を現した。
「今晩は。いい月夜だねえ」とうっすらと笑みをこぼしながら男が言った。
ラザンの額から汗が噴き出した。ーーなんだこいつ、ただもんじゃねえーー
「悪いけど君達にはこの子達の餌になってもらう。で、見込みがありそうだったら僕から素敵なプレゼントをあげよう」
一刻ほどすると、辺りは元の静寂につつまれた。後には累々とした盗賊どもの死体が残っていた。
それでも、幾人かは虫の息ではあるが生きていた。
シンはゆっくり瀕死のラザンのそばに行った。
「約束通り、プレゼントをあげよう」
「お前は死にたいか?それとも化け物になっても生き永らえたいか」
「い、生きたい」
「そうか。ではその望み叶えてあげよう」
そして近くを飛んでいたコウモリを呼んだ。近くにきたコウモリは人間型をとるとシンの前に跪いた。
「仲間にしてやれ」
わずかに6名生き永らえた。それらはすべてこうもり(吸血鬼)となったのだ。
「ユイ、後始末任せた」「了解」
浄化の炎が辺りを焼き尽くした。