169. ライド伯爵邸にて
「申し上げます。ライド伯爵から火急の件で使者が参っております」
ベアトリス女王の元へライド伯爵の使者が口上を述べた。
「陛下の命に従い街道を見張っていたところ、神狼様ご一行がいらっしゃったとのこと。取り敢えずライド伯爵邸にて滞在して頂いておりますが、この後の陛下のご判断を仰ぎたいとのことでございます」
ライド伯爵の邸はヤガの街の中心街よりやや北側にあった。ライド伯爵が先導する一行は街の者から好奇な目で見られながらも邸に入った。伯爵は邸の者に指示を出しながらも一行を邸へ案内した。
「我が邸に神狼様ご一行を迎えることは大変な栄誉でございます。陛下からのお迎えが来るまでゆるりとご滞在ください」
「ありがとう、ライド伯爵」
「私の家族を紹介させて頂きます。妻のニーニャと長女のリーニャ、長男のカイトと次男のサガンです」
伯爵は妻とその腕に抱かれている赤子とまだ幼い少年達を紹介した。
セイガは人間型に変身し、「僕が神狼のセイガ。よろしくね」と挨拶し、続けてアレクが
「私は結界の向こう側の国、シュトラウス王国第二王子アレキサンダー・ケン・サクライです。そしてこちらが今は亡きユークリッド王国の聖女エル、そして同じくユークリッド王国王子ヴィルヘルム、付き人のウィルになります」そしてロンも人間型に変身し、「僕は竜人国第二王子ロンです」と言ってぴょこんと頭を下げた。最後に「私は獅子国王立研究所で古代魔法を研究しておりますサンギです。お世話になります」と告げた。
「いやあ、皆様そうそうたる顔ぶれですね。流石、神狼様です。あとこれが我が家の家令のチザンです。何かありましたらこのチザンにお申し付けください」と言って伯爵は後ろに控えていたのっぽの家令を紹介した。
「皆様のお部屋の用意が調いましたのでご案内いたします」のっぽの家令が指示を出し、メイド達がアレク達を部屋に案内した。
彼らが部屋に行ってしまうと、ふうっと息を吐き伯爵はどっかりと近くのソファーに体を沈めた。
「彼らを足止めしたとき神狼様が出てこられたのには肝が冷えたぞ。王都は何をやっている。全然情報がなかったぞ」
「でも、何も無くてようございました」
「全くだ。神狼様以外でも国賓級の方々だったとはな。粗相のないようしっかり頼むぞ」
「かしこまりました」
のっぽの家令チザンは居間から出て、メイド長と料理長に指示を出し始めた。