168. 熊族の国 ④
ヤガの街はパディとベアレスの中間に位置している。ここから東へ行くと蛇族の住まうデムル湿原へと至る為、交易の中継地点としての賑わいを見せている街でもある。
このヤガの街の手前でこの国では珍しく検問所が設けられていた。
「アレクさん、あれ、検問所みたいだ」サンギの指さす方を見てアレクは頷いた。
「そうだな。何かあったのかもしれん」
「おおーい、そこの馬車とお前達、止まれ」
ばらばらと出てきた熊族の兵士達にアレク達は取り囲まれた。
「どうしたんです?」とサンギが聞くと、兵士は「む、お前は獣人だな。だがその他の者は人間だろう。聖ピウス皇国の者だな。女王陛下の命により取り調べる。抵抗するなら怪我をさせても構わないとのことだ」
兵士達は一斉に馬車を取り囲み、中へ入っていく。
「きゃあ」大柄な兵士にいきなり腕を掴まれエルが悲鳴をあげる。
エルとマルタ司教、ヴィルヘルムを外に出し「いるのはこれだけか」とアレクに聞いた。
「ええ、そうですよ。私達は悪い事なんてしてません」
「怪しい物も持っていないようだ。ではお前達はこの国を出て行くんだ」
「そんな乱暴な。私達はベアレスに商売をしに行くんですよ」とサンギが声をあげた。
「うるさい。これは女王陛下直々の命令なのだ」
「そんなの差別だ。僕達、悪い事してないのに突然国外へ出ろだなんて」
兵士はヴィルヘルムをグっと睨み「抵抗すればお前達は牢へ連行する」
一連の騒動を見ていたセイガが口を出した。
「ねえ、これって本当にベアトリスの指示なわけ?」
「な、なんなんだ。子犬が口を聞いたぞ」
「失礼だな。ところでアレク達は結界の向こう側から来たのにそれを調べもせずに聖ピウス皇国の者だと決めつけるなんておかしいよ」
「結界の向こう側?」
「そう、シュトラウス王国からはるばる来たんだ」
「そんなことあるか。人間は聖ピウス皇国の者に決まっている」
「ああもう、話になんないね。もっと上の人いないの?」
すると一人のいかにも貴族という出で立ちの男が前に出た。
「私はこのヤガを統治するライド伯爵だ」
「そう、僕はセイガ。神狼だよ」といって、変身を解いた。
「神狼様!」と言って伯爵は跪く。辺りの兵士もそれにならって一斉に跪いた。
「この人達は僕の関係者。聖ピウス皇国とは関係ない。王都のベアトリスの所へ行く途中なんだ。通してくれるよね」
「はい、ですが日も暮れかかっております。まずは我が邸にてご滞在いただき、王都へは私が知らせを走らせます。追って迎えが来るかと思います」
「そう、アレク、それでいいかな」とアレクの方をみるとアレクは頷いた。
「じゃあ、君達の所へお邪魔するよ」
その頃、王都では一騒ぎ起こっていた。
「何故、それを早くいわぬ。神狼様ご一行がこのベアレスに向かっていると。失礼があってはならない。早く迎える準備を整えよ」
女王はまだ見ぬ神狼の怒りを買うのではないかと恐れた。熊族の者達はおおらかで気の良い者が多いが、反面、粗野で融通がきかない者も多い。一行の中には結界の向こう側の人間がいるという。先日出した命令で、万が一牢に入れられると言うことが起きれば取り返しがつかない。
「何もなければよいが」
女王の心配はつきない。
明けましておめでとうございます。本年も引き続き宜しくお願いいたします。アレク達は無事にベアレスに着きそうですね。ジル達はパディの街で一儲け出来たんでしょうか。今後に期待です。