160. マルタ司教の懺悔 ①
マルタ司教はエルの方を向いて頭を下げた。
「聖女様、私は名前を偽っておりました。お許しください」
「何故、そんな事を?」
「貴女が恐ろしかったのです。私が犯した罪を貴女に知られるのが怖かった」
「どのような事をしたのですか」
「私の懺悔を聞いて下さいますか」
「聞きましょう。ここではなんですからあちらの馬車に移りましょう」
「あの・・・」
「ああ、アレクも同席させてもらうわ」
「わかりました」
「あれは500年前、聖ピウス王国がラルフ王国だった頃、ラルフ王国の圧政に反旗を翻したサルデス辺境伯と国王軍との間に戦闘が開かれていた時でした。私は当時11歳の子供でしたので戦闘には参加していませんでした。恐らく。というのはその当時の記憶が私には欠落しているのです。覚えているのは、ピウスという男の腕に噛みついていたことです。腕の肉を食いちぎり私はその場で倒れました。気が付くと私は簡易ベッドに寝かされその側でピウスという男が赤い目で私を睨んでいました。そしてわたしにこう告げたのです。『お前は一度死んだのだ。今いるお前はヴァンパイアに生まれ変わった』と。そして『お前は私の命には逆らえぬようになった』とも」
「そのピウスというのが聖ピウスと呼ばれる存在なのですね」
マルタ司教は頷いた。
「その後、ラルフ王国が滅びユークリッド王国となりました。ユークリッド王国には『神』と崇められる夫婦神がおりました。シン・サクライ様とユイ様です。彼らは戦で疲弊した民を助け、慈しみ、ユークリッド王国をかつてないほど繁栄させたのです。聖ピウスは彼らの従順なる僕でした。夫婦神の間に一人の幼子が生まれました。聖女様、貴女です。夫婦神はその女児を聖ピウスに託し伝説のエルドラドへ旅立っていかれました。その時に言われたのが『この子はその時になったら目を覚ます』というお言葉です。我々は教会の奥深くでその子が目を覚ますのをずっと待ちました。しかし、100年たち200年経っても貴女は目を覚まさなかった。そろそろ500年が経とうとする時、聖ピウスが言ったのです。『もうこの子は目を覚ますことはないだろう』と。そして『我らヴァンパイア族が何故人間の風下に立たねばならないのか』と。そこからは早かったのです。人間の聖職者とヴァンパイアの聖職者との争いが始まりました。人間の聖職者はヴァンパイアの聖職者に駆逐され、ユークリッド王国もヴァンパイアの聖職者に寄って滅ぼされました。勿論、私もヴァンパイア側についたのはいうまでもありません。ピウス様は私の絶対でしたので。誤算があるとすれば、ピウス様が貴女様を手に掛けようとしたことです。ピウス様が貴女の眠る部屋に入った途端、昏倒したのです。それに驚いて右往左往している我々の隙をついて人間の司教が貴女を連れ出した。そして貴女は行方不明となった」
「私は懺悔します。いくらピウス様の命でも夫婦神様の言いつけを破り、ユークリッド王国を滅亡に導き、貴女に手を掛けようとしたのは間違いでした。そしてピウス様は今でも意識を失った状態です」
マルタ司教の長い懺悔が終わった。
当時の状況の詳しい人物が現れましたね。さて、エル達はマルタ司教をどうするのでしょうか。
いつも呼んで下さり本当にありがとうございます。