16.ペンダントの記憶 ⑧
翌朝、彼らは薄暗いうちから起き出して出発の準備を始めていた。
「うう、頭痛てえ。飲み過ぎちまった。いつも野営中はこんなに飲まないんだが」
「ふふ、二日酔いかい?これを飲むといい」といってシンはコップに液体を注いでヨハンに手渡した。
なんだこれというヨハンに向かって 「二日酔いに良く効く薬草茶だよ」といって勧めた。
苦そうな色してやがんなといいながらも素直に飲むヨハン。
「これすげえな。それに飲みやすい。おかげですっきりしたわ。それにしても、昨日は魔獣も野盗も現れなかったな」
陰でこっそり結界を張っていたことは黙っていようとシン。
「じゃあ出発するか。村までもう一息だ」
小川に沿った小道を荷馬車がすすんで行くと目の前が開け、青々とした草原となだらかな丘に着いた。
「ここでちょっと休憩するぞ。この先、村まで水の確保ができないから馬を休ませる」と言ってヨハンは馬を荷馬車から放した。馬は喜々として青草を食べ始めている。
「この丘から村が一望に見えるんだ」と丘を登りながらヨハンはシン達に説明する。丘を登りきった先に村が見えた。村というには大きい。それというのも、村の周りには頑丈な城壁が巡らされているからだ。
「な、すごいだろ。これによってあのくそ豚領主もおいそれとは手出しできねえんだよ。だから嫌がらせにほら、(と顎で街道を示す)あそこに炊飯の煙があるだろう?野盗どもが領主に金を握らされ陣取っているって寸法さ。街道の行き来を邪魔するためにな。だから出入りする商人達は護衛を雇ったりしてるんだが、それが商品に上乗せされる。村の中では物は買わない方がいい」
シンは何か考え事をしているようでおもむろに口を開いた。
「ヨハン、ここでもう1泊しないか」
「別にいいが、まさか野盗にびびったってことはないよな」
「それこそまさかだよ。夜に紛れてあの野盗どもをなんとかしようと思うんだ」
「そいつは面白そうだ。で、俺は何をしたらいい」
「悪いヨハン、ちょっと特殊な魔法を使うから君はここで待機していてくれ」
「ちぇっ、待ちぼうけかよ」
「そのかわりとっときのワインを置いていくからさ」
「分かったよ。でもなんかあったら狼煙を上げてくれ。ここでみているから」
「了解」
彼らは夜のためと、木陰で昼寝をすることにした。
午後の陽射しは柔らかく、草原を渡る風は時折、木の葉を揺らし、遠くで馬が草を食んでいる。そんな平和な風景も夜には様変わりすることをシンはしっている。
ペンダントの記憶もやっと半分をすぎました。長々とすいません。もう少しお付き合いください。