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159. ”ウィル”という名の少年 ③

馬はもくもくと上って行く。揺られながら”ウィル”はこれからのことを考える。


恐らく彼女に抗うことは無理だ。それは本能的に分かっている。彼女は恐らく今は亡きユークリッド王国の聖女だろう。出なければ私がこれほどの畏怖を感じるはずがない。果たして私は彼女に受け容れられるだろうか。それはとてつもなく困難なことに思えた。ユークリッド王国を滅ぼしたのは我々ヴァンパイアだ。

だとしても最早、残された選択肢は少ない。


私は、ああ、僕は何でこうなってしまったのだろう。あの時、友人と卒業旅行を楽しんでいただけなのに。受験勉強を頑張って難関国立大学の医学部に合格し、舞い上がってた?僕の前途は未来は輝かしいものになるはずだったのに。旅行先での事故。スキー場へ向かうバスの転落事故。僕が覚えているのは、周りの人の阿鼻叫喚、恐れ、そして暗転。気付いたら僕はある男の腕に噛みついて血を啜っていた。お陰で僕は新しくヴァンパイアという生物として生まれ変わっていた。なんということだろう。医学を志した者が他者を虐げおまけにその血をすするなんて。僕は絶望した。僕が噛みついた相手がピウスというヴァンパイアの上位種だったせいか、いつの間にか司教という立場に祭り上げられていた。人を殺めるのも、血を啜るのも、反吐が出るほど嫌だった。それでも僕は生きていた。自死すら出来ない状況の中、500年は余りにも長い。


それでも僕は思う。僕は死ぬのは嫌だ、生きたい。でも奴ら、聖ピウス皇国の駒として使われるのは金輪際ごめんだ。聖女様はこんな僕をお許しになるだろうか。一時的とはいえ奴らに与したこの僕を。



「おい、ウィル、着いたぞ」という声でハッと我に返った。


「セイガ、ご苦労さん」

セイガは子オオカミの姿に戻っていた。尻尾を振りながらアレクに

「この人達どうするの?」と聞いた。

「うーん、まずは獣人国に何をしにきたか聞かないとな」

光の網の中でもがいていた四人はウィルを見る。


「そ、それは」言いかけた一人が再度固まる。ウィルが目から紅い光線を出していた。


「それは僕が説明します」とゆっくりとウィルが言った。


「この者達は、聖ピウス皇国のヤコブ枢機卿の命令でここにいるヴィルヘルム王子を取り返しに来たのです」

「ヴィルヘルム王子?」

「ええ、彼は今は亡きユークリッド王国の最後の王族なのです」

「何故、君はそれを知っている?」


「私が聖ピウス皇国のマルタ司教だからです」

「君が司教?では君はヴァンパイアなのかい?」


「ええ、私は500年生きた最古のヴァンパイアの一人です」
























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