158. ”ウィル”と名乗る少年 ②
暫くすると、テツが例の奴らを引きずってきた。流石、虎族だ。怪力は半端ない。光の網に掛かった奴らは身動きがとれずもがいていたが、ウィルを見ると固まった。その時、ウィルの目から怪しい紅い光がでたのをアレクは見逃さなかった。だが、素知らぬ振りをしてテツに言った。
「テツ、ご苦労さん。さて、こいつらをどうするか。もうそろそろ、サンギが到着しても良さそうなんだがな」と言ってアレクは崖下を覗き込んだ。
「あ、あれ、そうじゃないですか」とテツが指さす方を見ると、馬に乗った人物が見えてきた。
「ああ、あれだな。セイガ、お前こいつらを運べるか?」とアレクが聞くとセイガは
「任せてよ。じゃあもう一回り大きくなるか」と変身し更に大きくなって彼らを咥えた。
「じゃあ、崖下に下りるか」
アレクはヴィルヘルムを背負い崖下に下りていった。セイガもそれに続く。残ったテツとウィルだが、「ウィル、お前一人で下りられるか?」とテツが聞くとウィルは意を決したように「大丈夫」と言って崖を難なく下りていった。
「ヒュウ」とテツは口笛を吹き、「あいつすげえな」と感心しながら崖を下りた。
崖下に着いたアレクをサンギが迎えた。
「アレクさん、無事見つかったようですね。それにしても随分と大きな荷物をお持ちで」
「途中、出会ってな。おい、テツ、お前、セイガに乗れるか?」アレクは下りてきたばかりのテツに声を掛けた。テツは小山のようなセイガを見上げ頷く。
「よし、セイガ、お前はテツとこの荷物を先にエル達の所へ届けてくれ」
セイガは網に捕えた四人を咥えたまま走り出した。
「さあて、俺らも行くか。ウィルだったけか、サンギの馬に乗ってくれ」
残された四人は馬上の人となった。
「ところで、見つかってよかったですね。君はウィルっていうの?」サンギが鞍の前に乗ったウィルに話かけた。
「はい。ヴィルヘルムを助けてくれてありがとうございます」
「でも聖ピウス皇国から逃げてくるなんて大変だったでしょ」
「ええ、無我夢中で逃げてきました」
「あの山の向こう側には何があるの?」
「何でも新しい鉱山が出来たとかで。僕らも連れて来られたんです」
「ふ~ん、でも鉱山に君達みたいな子供を連れてくるかなあ」
「・・・・」
「サンギ、そのへんにしておけ。詳しいことはさっきの連中から話を聞いてからだ」
押し黙ってしまったウィルを見てアレクが言った。ヴィルヘルムは心配そうに彼を見ている。馬たちは黙々と坂道を上っている。恐ろしい彼女に抗うことができるかウィルは決めかねていた。