156. 小さな逃亡者 ⑥
翌朝早く山小屋を発ったアレク達は『兄様』を捜すべく、二手に分かれた。
「アレクさん、この先に切り通しがあります。彼の言う崖というのはそこのことだと思うのですが」
「分かった。俺は山側から崖の上に出てみようと思う」
「そうですか。かなり険しい山道になると思いますよ。馬では不可能です」
「サンギ、クロックを頼むな」
「任せてください。それよりもアレクさんの方こそ足場が悪いのでお気をつけて」
アレクはヴィルヘルムを背に光の帯で括りつけ徒歩で山の方へと向かい、サンギは馬で街道を上って行った。背面の山を見上げる。かなり険しい山だ。アレクは己に身体強化魔法をかけると一気に飛び上がった。背中で悲鳴が上がる。
「悪いな。ヴィルヘルム。少し我慢してくれ」
岩に足をかけるとさらに上へと飛び上がる。何度かそうしているうちに頂上へと辿り着く。
「ヴィルヘルム、大丈夫か?頂上に着いたんだが、どの辺りを通ってきたか思い出せるか?」
「すみません、アレクさん。通って来たときはもう薄暗くなっていてよく分からないんです」
「そうか。あの辺りが切り通しだな。あそこまで行ってみるか」
アレクは頂上の岩から降りて、切通しに向けて走っていった。
翌朝セイガは皆を集めて、ウィルから聞いた話をした。
「という訳で、ここにもう一泊しようと思う。それで、僕とウィルとテツでその6歳の幼児を探そうと思う。後の3人は結界を張ってここで待っていてくれるかな?」
「崖の場所は分かるんですかい?」
「ここを下ってしばらく行くと道が二股に分かれているんだ。で、来た道とは違う道をいくと切通しがあるらしい。そこを中心に捜してみるよ。多分、アレク達はその道を通ってくるだろうから、もし会ったら事情を話して一緒に捜してみる」
「じゃあ、行こうか」というなり、セイガは変身を解いた。と同時に熊よりも大きい銀色のオオカミがそこに出現した。
目を見開いて驚いている2人を尻目に「時間がないから早く乗って!」とセイガはせかし、乗ると同時に走り出した。
「はあ、あれがセイガ様の本当のお姿なのですね。あれをみるとやはり神狼というのは嘘ではないんですね」
「おい、ジル、失礼だぞ」
「だってサンガ、いつものセイガ様を見ていたら想像がつかないよ」
「じゃあ、私達も結界を張って待つことにしましょう。お願い、ロン」
「キュイ」
ロンが返事をするとともに辺りは薄い膜で覆われた。