155. 小さな逃亡者 ⑤
「じゃあ、僕もテントで寝ます」
「ああ、ゆっくり休むんだぞ。おやすみ」
「おやすみなさい」
小さなテントにもぐり込む。思わずホウっと溜息が出た。この私が溜息を吐くとは。彼は呼び止められた時の事を思い出し戦慄した。『彼女が怖い』と本心から思ってしまった。この私が?こんなことは500年ぶりだ。私が人間で無くなった日からこんな思いをすることはなかった。聖ピウス様が復活されたらこんな感じになるのだろうか。彼女は誰だ。きっとルカ司教が消滅したことと何か関係があるに違いない。チビ王子はどうしたろう。仏心を出して、逃がしてやろうなどと思ったことが間違いだった。崖から落ちて行方しれず、あの高さからでは助からないだろう。このまま聖ピウス皇国に帰ったとしても、お咎めを受けるに違いない。どうするべきか・・・
テントに入って『ウィル』はつらつら考えていた。堪らなくなり、テントの外に出てみるとそこには子オオカミのセイガがいた。
「眠れないのかい?」
「うん、いろいろ考えていたら眠れなくなってしまって」
「・・・実は、ここに下りてくる前に連れがいたんです。でも、崖から落ちてしまって。とても高い崖だったので助からないとは思うんだけど・・・」
「そうか。明日、明るくなったら捜してみようよ。もう1日ここで野営してもいいしさ」
「え、でも、それじゃあ」
「大丈夫さ。ところでどんな人?捜してるのは」
「あの、子供なんです。6歳くらいの。僕が負ぶって山道をあるいて来たんですけど転んだ時に」
「なんだって。君、平気なの?そんな幼児をほっといて」
「いや、まあ、たまたま知り合っただけっというか」
「それにしたって」うさんくさげにセイガは彼を見た。
「取り合えず、明日は全員でその子を捜そう」
~~~聖ピウス皇国教皇庁~~~
「マルタ司教の行方が分からない?」
「はい、例の王子を連れて隠し鉱山へ向かったのは分かっておりますが、それ以降の足取りが掴めません」
「あの王子は、王家の秘宝を持っているのだ。何としても捜し出せ」
「はっ」 闇ギルドの者達が散っていく。
ヤコブ枢機卿はでっぷりとした体を椅子に沈めた。
「全く、マルタの奴は何をしておるのだ。500年たってもまだ子供のつもりか。あいつならあの幼い王子をたらし込んで秘宝を奪えると思ったのだが」
「聖ピウス様の復活が近い今、なんとしてでもあの秘宝を手に入れなければ」