154. 小さな逃亡者 ④
再びノックの音が聞こえ、ヤン婆さんとサンギが部屋に入って来た。
「ほれ、ミルクとビスケットを持ってきたぞい」とヤン婆さんは盆を差し出した。
「ありがとう、お婆さん。僕ね、お腹もちょっと減っていたんだ」とヴィルヘルムが嬉しそうビスケットに齧り付いている。
「そうだろうと思ったよ」とヤン婆さんは振り返り「アレクさんや、この部屋は娘のだから好きに使ってくれ。娘は買い出しに行っとるから2,3日は帰ってこんし」
「アレクさん、婆さんに毛皮の敷物借りてきました」
「じゃあ、俺とサンギはこの敷物で眠らせてもらうか」
「お前さんらも腹空いてるだろう。台所にスープがあるから適当に食べな」
「ありがとう、婆さん。そうさせてもらうわ」
アレクとサンギは敷物を敷いたあと、部屋を後にした。
簡単な夜食が終わり、ジルはう~んと伸びをした。
「今日は何だか疲れたわ-」
「疲れたのはお前じゃなく、馬たちだ。な、そうだろう?」とテツが馬たちをみる。
「だって、持って行きたい物ばかりだし」
「まあ、帰りは空になることを期待してるよ」とサンガ。
「でも、ウィル、あんたあんまり食べないね。食べないと大きくなれないよ」
「すみません、僕、いつも小食なんです」
エルが立ち上がって、ロンを抱き上げた。セイガもエルの側に寄る。
「私達は馬車で寝るけど、ウィルはテントで構わない?」
「あ、僕は何処でも」
「そう、じゃあ私達は行くね。おやすみ」
「おやすみなさい」
「エルちゃん、私も後でいくから」「わかった」
馬車に戻り、エルはセイガに「どう思う?」とウィルのことを聞いた。
「う~ん、別に変なことはないんだけど。なんかなあ。子供にしては落ち着いているって言うか。だって、逃げてきたんだよ。もっとビクビクしてもいいかなって」
「私はなんとなく彼はヴァンパイアじゃないかなって思うんだけど」
「えっ、本当?」
「多分ね。何か企んでるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あ、そうだ、ロン、個々に結界て張れる?サンガさんとテツさんに」
「キュウ~」「やっぱ難しいか」
「エルちゃん、ごめん、何?どうしたの」ジルが馬車に乗り込んできた。
「ジル姉さん、実はウィルのことなんですけど。彼、もしかしたらヴァンパイアかもしれないってセイガと話してたんです」
「えっ、本当?」
「で、テツさんとサンガさんが危ないかも」
「どうしよう。ねえ、エルちゃん、どうしたらいい?」
「取り敢えず、僕が見張っておくよ。まあそんなバカなことはしないだろうけど」
「セイガ様、お願いしますね」
「うん、任せて」と言って、セイガは馬車を降り、テントの方へ向かっていった。