152. 小さな逃亡者 ②
アレクとサンギは再び国境を越え獣人国に入ると、今度は首都レグルス方面への街道には戻らず西側の山間部を通る街道へ進路を変えた。この道は聖ピウス皇国と熊族の国へ抜ける重要な街道だが道が険しく馬車が通れないためどうしても人気がなく寂れた感じは否めない。
「あとどれ位で追いつける?」
「そうですねえ、向こうの進み具合にも寄るでしょうが1日か2日というところでしょうか」
「そろそろ日が暮れるぞ。泊まる場所を確保しないとまずいだろ」
「もうちょっと行ったところに山小屋がありますよ」
「急ごう」
並足だったのを急がせ山小屋に向かっている途中に幼児がうずくまっているのが見えた。
「どうどうどう」アレクはクロックを止め、幼児の近くで降りた。
「おいっ、どうした、しっかりしろ」と言うが返事がない。幼児を抱き上げ馬に乗せたが、幼児はぐったりしたままだ。
「サンギ、山小屋まで急ぐぞ」と言って駆けだした。サンギも後に続く。
山小屋に到着し扉を叩くと、老婆が出てきた。
「ヤン婆さん、悪いが今晩泊めてくれ」とサンギが言うと、
「あれ、サンギじゃないかね。その子はどうしたんだい?」
「途中の道で倒れていたんだ。親や連れは見当たらなかったから連れてきた」
「ここじゃなんだから入っとくれ。ベッドは奥だよ」
「助かる」と言ってアレクは幼児をベッドに寝かしつける。
寝かしつけたあと、外傷がないか確認したが擦り傷くらいで大した物はなかった。ヒールを使い治してやる。すると「ううん」といって幼児が目を覚ました。びっくりしたのか大きく目を見開いている。その瞳は澄んだ碧色だ。
「ここがどこだか分かるか?お前は人間の子だろう?誰か知り合いときたのか?」
アレクの質問にちょっと戸惑ったように目を見開き
「ここ、どこですか。僕、兄様に負ぶさって山道をきたんですが。あ、兄様、兄様は?」
「その兄様って言うのは知らん。どんな奴だ?」
「えーっと、僕より6つ年上なんです。僕たちがコウザンってところに来たらここにいたら殺されるから逃げようって。途中で僕が歩けなくなって、兄様が僕を負ぶってくださったんだっけど。崖の上から落ちてしまって。どうしよう。兄様も崖から落ちちゃった」と言って泣き出した。
「この辺りに崖なんてなかったぞ」と不思議そうにアレクが言うとサンギが「もう少し行ったところに崖がありますが、彼が倒れていたのは崖からは大分離れていましたし」
「まあ、もう日が暮れたし明日、明るくなったら見にいってみよう」
「おい、坊主、お前の名前は?」
「ヒック、ヒック、あのヴィルヘルムっていいます」