151. 小さな逃亡者 ①
獅子国から熊国行くには険しい山道を通らなければならない。ただでさえ荷物満載のジル達の馬車は坂道を登るのにさらに速度が遅くなった。結局、テツ一人に馭者を任せ、ジルはエル達の馬車に移った。
「ごめんねえ。狭くなっちゃって」
「いえ、まだ余裕がありますから大丈夫です」
「エルさん、エルちゃんって呼んでもいい?なんかエルちゃん見ていると妹を思い出してね」
「妹さんですか?」
「そう。黒猫系で器量よしだったんだ。つんと済ましているみたいに見えるけど、実はとっても恥ずかしがり屋だったの。エルちゃんもそうじゃないかなと思って」
「ええと、あの・・」
「ほら、そういうとこ。そっくり」といってジルは笑った。
「妹さんは今どうしているのですか」
「死んだわ。自ら命を絶ったの。いろいろ悩んでいたみたいだけど、私もその時ちょうど店を両親から引き継いだばかりで忙しくてね。あの子の悩みを聞いてあげることができなかった。それが今でも心に引っかかってね。エルちゃんも悩みをため込みすぎちゃだめよ」
「ジルさん、私、同世代の友達がいないんです。ずっと男の子として育てられてきましたし、人との距離感がわからなくて。アレクやセイガ、ロンも女の子のことはわからないだろうし。ジルさんが私のお友達、ううん、お姉さんになってくれるとうれしいんですけど」
「じゃあ、まずはその敬語をやめようよ。普通に話してくれて構わない。私がエルちゃんの姉さんになったげる」
「うん、ジル姉さん、ありがとう」
街道沿いにある野営地にたどり着いた時だった。山側からガサガサと何かが通り過ぎる音がしたかと思うと、いきなり目の前に子供が飛び出してきた。獣人ではない、人間の子だ。
「誰だ!」とテツが誰何する。その子は怯えたように後ずさった。見れば10歳くらいの男の子だ。
「君、どうしたの?言葉は分かる?」
エルが声を掛けるとホッしたように頷いた。
「僕、聖ピウス皇国から逃げてきたんです。ちょうどこの山の向こうに魔石を採る鉱山があって」
「この山の裏に鉱山なんて聞いたことないよ」
「最近、魔石が見つかったとかで大勢の人が送られて・・」
「ああ、だから獅子国の住人も骨抜きにして鉱山に送ろうとしていたのか」とサンガが納得したように頷いた。
「君、行く宛はあるの?」とエルが聞くと少年は頭を振る。エルは側に来た子オオカミに話しかける。
「セイガ、どうしようか。この子このままにはできないし」
「うーん、こういうときアレクがいればな。でも、まあ一人くらい増えても問題ないんじゃない?ねえ、ロン?」
「キュイ」とロンもポーチから顔を出した。
「じゃあ、君、私達と一緒に来ない?熊族の首都ベアレスにいくところなの」
「えっ、いいの?本当に?迷惑かけるかも・・・」
「大丈夫、心配しないで。私はエル。あなたは?」
「僕の名前はヴィルへ、いや、ウィルです。宜しくお願いします」