15. ペンダントの記憶 ⑦
ゆったりと荷馬車を進ませながらヨハンはシンに話しかけた。
「俺はなあ、3年前まで領都で兵士をしてたんだ。小隊長やってたんだぜ。だけど、さっきの村のことで上官ともめてなあ。だってじじばば殺せってそんなの出来ねえよ。それでクビよ。それで腕っ節には自信があったから運び屋始めたの。まあ、野盗っていっても大概は農民くずれだろ。たかがしれてる。それに金目の物を運んでいるわけじゃねえし。まあ、ちょっとした便利屋みたいなもんかな。でもそれなりに稼げているんだぜ」
「じゃあ怖い上官もいないし兵士の頃よりいいんじゃない」
「まったくだ」といって笑いながらヨハンは話を続けた
「今度いく村だけどな、元伯爵様が治めていなさる土地なんだ。なんでも、新しい王様に代わった途端に鉱山に人を送れと言われたらしいんだが断ったそうなんだよ。そしたら領地の大半を没収され、爵位も男爵まで落とされたらしいんだ。だがクイル村には、ああ今度行く村な、良質で高価な薬草の群生地があるんだよ。お上はその事を知らなかったらしくてな。男爵領にしちまったって訳さ。新しく領主となったあのくそデブが地団駄踏んで悔しがったって話だ。だけど村に嫌がらせしてきてな、それで村に入るには厳重な検問を通んなきゃなんないんだよ。え、お前さん達は俺の連れってことでOKさ。こう見えて俺、結構、顔ひろいんだ」
「でもなんで新しい王様はそんなに人を鉱山に送りたがるんだろう」
「なんでも魔石?ってえのが採れるようになったそうだ。それを使えば魔法を使えるエルフや獣人に対抗できるとかなんとか。でもよ、魔石が採れる所が魔獣がうようよいるところなんで誰も行きたがらねえ。だから最初は罪人達を送り込んでいたが一向にらちがあかねえ。それで各領主に圧力かけて無理矢理送り込んでるって訳さ。そこに行った奴は一人として戻って来てねえ」
「そうなんだ・・・」そこで会話は途切れ、シンは考えにしずんだ。
そろそろ陽が傾き始めた頃、ヨハンはシンに
「もうちょっっと行くと小川がある。今夜はそこで野営しよう」といって脇道に入っていった。
小川のほとりに野営するのにちょうどいい広場があった。シンとユイで焚き木を集めている間にヨハンは馬に馬草と水を与え野営の準備をした。
シンとユイは焚き木を集め終わるとそれに魔法で火をつけた。それを見ていたヨハンは
「いやあ、魔法が使えるって本当だったんだな。すげえな」
「驚くのはこれからさ。荷馬車に乗せてもらったお礼に君をディナーに招待するよ」
そう言ってシンは、唖然とするヨハンをしりめに何もない空間からテーブルや椅子、そして出来たての料理の数々を取り出してきて並べた。
「さあどうぞ」
「これ、ほ、本当に食えるのか?」
「ああ、大丈夫だよ。料理は魔法で出したもんじゃない。空間に収納していただけだ」
「収納?まあいい。野営でこんなもん食えるなんて俺あなんてついてるんだ」
「よかったらワインもどうぞ」といってユイもコップにワインを注ぐ。
「ありがてえ。おまえら乗せて本当によかったぜ」
そうしてその夜は暮れていった。