147. トラップの調査 ②
まだ夜も明けきらない早朝。アレクはクロックの元へ行った。乗馬用の装備をみて賢いクロックは察した様だ。興奮する彼にアレクは装備を着けながら「シー。今日から暫く俺を乗せてくれ」と鼻面を撫でると、任せておけというように頭を上下に振った。
その様子を見ていたサンギが「賢い馬ですね。主人のことをちゃんとわかっている」というと、アレクは
「当たり前さ。クロックが生まれた時からの仲だからな」と言ってクロックに跨がった。
ゆっくり出口に向かって進んでゆくと、後ろから視線を感じた。恐らくエルだろうその視線に彼は振り向かず片手を上げ挨拶をして、出て行った。
通りに出て北門の方へ向かう。夜が明けてない街は恐ろしく静かだった。王宮前広場を抜け街の北側の地区に入ると様相は一変する。通りに寝転がった者、物乞いしてくる者など通るのに一苦労だ。それらを振り切ってやっと北門まで来たが、門番などはいず、開けっ放しの状態だった。
「ふう、出るのに一苦労するなんて。ここもつい2,3年前まではこんなんじゃなかったのに」とサンギが悔しそうに言った。
「これは立て直すのになかなか大変だな」
「王権が熊族に移ったのは当然かも知れません」
北門をくぐり街道を真っ直ぐ北に進むと小高い丘の上に来た。
「ちょっと、休憩しようか。朝飯もまだだし」
二人は馬を降り、小川の近くで2頭を放してやった。たき火が用意出来たところで、アレクは背嚢からパンとチーズを出し、サンギに渡す。サンギは小川から水を汲み、たき火でお湯を沸かしお茶を淹れた。
簡素な朝食を食べ終え、お茶を飲んでいるとき、サンギはおもむろに口を開いた。
「アレクさん、前々から伺いたかったんですけど」
「サンギの言いたいことは分かる。俺達が何者かってことだろう?」
「神狼様のお付きってきいていたんですけど、神狼らしき人は見えないし」
「ぷっははは」とアレクは吹き出した。
「ごめん、ごめん。セイガが神狼だよ。ああ見えてもな」
「えっ、セイガ君が?」とサンギは青ざめて「それを知らずに失礼なことばかり・・」
「それに俺達がセイガのお付きってことでもない。入国する際、便宜上その肩書きを使っただけさ。ほらっ」とアレクは認識阻害を外して見せた。
「あ、あなたは」
「俺は人間の魔法使い。あの結界の向こう側から来た。エルもそうだ。そして、ロンとセイガは魔の森で出会った大切な仲間さ」