145. エルの悩み
アレク達が出ていくと、エルは深い溜息を吐いた。
「キュイ」ロンが人間型に変身し、エルの膝の上に乗って心配そうに見上げる。
「ロン」と言って、エルはギュっと抱きしめた。
「私ね、彼らを灰にしたくないって一瞬思ったの。勿論、彼らの所業を考えればそれは許されない事だってわかっているのだけれど」
「エルは優しいね。そう思うことは全然悪い事じゃない。僕は命乞いする彼らに厳しい罰を与えたエルを尊敬するよ。辛いけど厳しさも必要なんだ。より良い世界にしていくために」
「ありがとう、ロン」エルは寂しげに微笑んだ。
サンギの話を聞き、アレクは考え込み、そしてセイガに提案した。
「なあ、セイガ。お前、エル達と先に熊族の国に行ってくれないか」
「えー、どうして?」
「俺は軍隊が消えた現場を見てみたい。元々俺の目的は『黄金の道』の調査だ。『黄金の道』がそこで終わっているのかそれともそのトラップの先も続いているのか確かめたい」
「わかったよ。でも馬車はどうするの?クロム1頭だけで引けないよ」
「ジル、馬を1頭貸してくれないか。何ならうちの馬車で熊族の国に行って貰っていいのだが」
「そりゃあ、ありがたい。馬はまかせて」
アレク達のやりとりを聞いていたサンギがアレクに申し出た。
「アレクさん、僕が現場に案内しますよ。うっかり足を踏み入れてアレクさんも消えたら大変じゃないですか」
「そうしてもらえると、助かる。明日の朝、出発しようと思うがどうかな」
「わかりました。なんかワクワクしますね」とサンギが嬉しそうに言うと、ジルは呆れたように「全く、懲りないんだから」と溜息を吐いた。
「私らは準備があるから、出発は早くても3日後になるけどいいんですか」とジルがセイガに聞くと、セイガはそれで構わないと答えた。
「じゃあ、エル達をつれてここに戻ってくるか」
王宮に戻るとセイガは熊族の使者たちのもとへ向かった。3日後の出発になる旨を知らせに行ったのだろう。そしてアレクはエル達がいる部屋に向かった。
「エル、少しは元気になったか」
「うん、もう大丈夫。ごめんなさい、気を遣わせちゃって」
「皆、悩んで大人になるんだ。気にする必要はないよ」
「え、でも、私もう大人なんですけど」
「いいや、まだまだだね。あ、これからジル達の店に移るぞ」
「無事、会えたんですね」
「ああ。それから明日からしばらくの間、俺とは別行動になる。エルはセイガとジル達と一緒に熊族の国に向かってくれ」