144. トラップからの帰還者 ③
「失礼いたしました。私の名前はサンギ。サンガの弟です」とヒョウ族の男はそう名乗った。彼は妙に嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせている。
「え、じゃあ君が『黄金の道』に仕掛けられた罠から生還したという」
「ええ、皆には馬鹿にされましたけどね」
「馬鹿にする?」
「軍隊でも消えてしまうようなところに物見遊山で行く馬鹿な奴だと」
「まあ、そうだな」とアレクは苦笑する。
「俺はアレクそしてこっちがセイガだ。宜しく」と手を差し出すとサンギは嬉しそうに手を握った。
「こちらこそ、宜しくおねがいします」
そこへ慌ただしくジル達が入って来た。
「アレクにセイガ様、ようこそ。あれ、エルさんは?」
「ああ、疲れたみたいでロンと休んでいる」
「そう。いろいろあったものね。ところで王様は熊族に決まったんでしょう?」
「うん。熊族のベアトリス様に決まったんだ」
「やっぱり。こうしちゃいられない。サンガ、隣の服屋にいって大量に服と布を買い込んできて」
「服を買い込んでどうするんだ?」
「決まってるじゃないか。熊族はお祝いムードになるに決まってる。服や布は大量に売れるさ」
「お前達、今度は熊族のテリトリーに行くのか?あんな目にあったばかりなのに」とアレクがあきれて言うと、
「あたりまえじゃない。これが商人というものなのよ」とジルが胸を張って言った。
「おもしろいでしょ」とサンギがクスクス笑って「これだから義姉さん達は見ていてあきない」と言うとジルが「お前も笑ってないで兄さんを手伝ったらどうだい」と叱りつける。
「でも、神狼様達は僕に会いに来たんだろう?」
「そうだった。こんな義弟ですが何かのお役にたちますか?」
「ああ。君が遭遇したという軍隊が消えたという話をもう少し詳しく聞きたい」
「わかったよ。それじゃあ、話すね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あれは僕が王立学校を卒業して間もなくの頃、僕の友人が騎士試験に合格して初めて遠征にでるという話を聞いて見送りに行ったんだ。そしたらあの噂の道を調査しに行くって言うじゃない。おもしろそうだから付いて行くことにしたんだ。友人は遊びじゃないんだから帰れと言っていたが邪魔しないという条件で付いて行ったんだ。かなり大掛かりな軍隊だったよ。だから、兵士に紛れ込んで付いて行き安かったんだ。で、例の三叉路に着いて最初に物見の兵士達がいったんだけど一向に帰って来ない。3日待って帰ってこないもんだから、業を煮やして軍全体が動き出したんだ。僕も後ろから付いて行った。暫く森の中を進んでいたんだけど、いきなり辺りが白く光ったんだ。僕はヤバイと思って思わずそこから引き返した。そこでふと、足を止めて後ろを振り返ったんだ。そしたら前方に見えていた軍隊が跡形もなく消えていたんだ。森は静かなままだった。僕は恐ろしくなって来た道を一目散に逃げ帰った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
と言う訳さ」と彼は遠い目をして言った。