138. 正教会の罠 ⑥
「ふあはははは」 ルカ司教の哄笑が辺りに響く。
「どうですか、聖女様。我々の最高傑作をご覧ください。我々が一番恐れていたのは聖女様、実は貴女だったんです。ユークリッド王国が陥落した時、貴女が連れ去られたと知った大いなる絶望。貴女が目覚めていたらと思う恐怖。せっかく、シン・サクライ様がこの地を離れて下さったのに貴女を懐柔しない限り我々の野望を果たすことは敵わない。我々は長年研究を重ね、ついに希望を見出した。これをご覧下さい。魔石による人工生命体。もし、貴女が私を灰燼に帰すと制御がなくなりこれは暴れ狂うでしょう。さあ、どうします?これは、突いても切っても死にません。これを制御できるのは私だけなのです」
エルは唇を噛みしめ叫んだ。
「貴方方の野望とは何なのですか」
ルカ司教はにやりと笑い「勿論、ヴァンパイアによる世界統治です」
「聖女様、おとなしく聖ピウス皇国へ来て下さい。いやなに、貴女に危害を与えるつもりは毛頭ありません。貴女は我々の大切な聖女様。正教会の奥深くにて大切に保護致します」
「エル、そんな戯れ言に従う必要はない」アレクが叫ぶ。
「おや、そうであれば皆様を叩き潰すのみ。この結界がいつまでもつか」
思わずアレクはロンを見た。人工生命体による絶え間ない攻撃に結界はよく耐えている。しかし、ロンの魔力がどれ位もつかは未知数だ。ロンはいまだ竜の幼生体なのだから。
この禍々しい人工生命体は獣人達をつぎはぎにして合わせたものに違いない。頭は獅子、鳥、蛇の三つにわかれ胴体は巨大な熊、背中には羽がついており尻尾は大蛇がうねっている。四肢は素早く動ける猫科を思わせる足と手には鋭い爪があった。その爪で絶え間なく結界に攻撃を与えている。優に5m以上の体から出されるパンチは相当なものだ。それに尻尾の蛇からは毒液が吹き付けられている。
「畜生」と思わずアレクから声がでた。セイガはと見るとじっと相手を観察している様子が見て取れた。
「アレク、お前、聖剣を持っていたな」
アレクはハッとして腰にてをやる。そういえばこの剣は国をでるときに父上が宝物庫から持ってきたものだった。確か、ケン・サクライが作り上げた一品とのことだったが。やれるかも知れない。俺は直感的にそう思った。
「アレク、直接あの魔石が輝いている胸を狙え。俺は奴の気を引いてみる。ロン一時的に結界を解除できるか?」セイガが怒鳴ると
「キュイ」ロンが答えた。
「いくぞ」