136. 正教会の罠 ④
デンとアレク達が走り去った後、それを追おうとする者にエルは命じた。
「動くな」
すると彼らはピタリと動きが止まった。だがその内の何人かは動きを見せる。といったところで、ロンがポーチから飛び出した。「キュイ」と鳴くと、ロンの体がみるみる大きくなる。とそれは3m位の体長になり「がああ」と威嚇の声をあげた。全員の動きが止まった。
「俺はドラゴンが相手だなんて聞いてないぞ」兜を外しながら一人が言うと、次々と兜を取っていく。
ザキとリブロがエルの元へ集まりながら、「君、エル君だよね。覚えてないかな。始まりの街で一緒に出発した冒険者、『暁の稲妻』を。俺達がそうなんだよ」
「あと、兜を脱いだ奴も聖ピウス皇国に捕まった冒険者なんだ」
エルは辺りを見廻し、「どうして聖ピウス皇国なんかに使えているの?」と問うと、
彼らは一様に「俺達は脅されていたんだよ。言うこと聞かなければあの化け物達の餌食にするって」と固まったままでいる聖騎士や神父達を指した。
「奴らは人間の血を啜るんだ。何度もみたよ。怪我した奴や使えねえ奴の血を啜って干からびさせるのを。それはもう悍ましいったら」
「ロン、この教会に結界を張ってくれる?誰も逃げ出さないように」
「キュイ」とロンが言い、薄い膜が教会を覆った。
そこでエルは命じた。「そこの聖騎士達、神父達もそこへ並びなさい」
彼らは抵抗する様子もなくのろのろと移動した。
「何故、このようなことを?」
すると静かにしていたルカ司教が「誤解です、聖女様」と声をあげた。
「我々は聖女様のためにより良い世界を作ろうと努力して・・」
「私の為に?」とエルが強い声を出すと押し黙った。
「私の生まれた国、ユークリッド王国を亡き者にしたことが、私の為というの」
エルの赤い目が爛々と輝きだし、体から赤いオーラが出ると教会の者達は恐れおののいて地に伏せた。
ルカ司教があえぎながら「聖女様、どうかお静まり下さい」と懇願した。
そこへ獣人達を助け出したアレクとセイガが地下から上がってきた。
「エル!怒りに任せてこの者達を裁いてはいけない。まずは獣人達に彼らの罪を告発してもらうんだ。裁くのはそれからだ」
エルは赤く輝く目をアレクに向けた。次第に輝きが薄れていく。
「ごめんなさい、アレク。つい、カッとなってしまって」
「セイガ、獅子国王を呼んできて貰えるか?」
「わかった」といって、セイガは身を翻した。