134. 正教会の罠 ②
ルカ司教が間を詰めて何かをしようとしたが、オオカミに変身したセイガがアレクの視界をさえぎった。
「貴方が神狼だったんですね。私は間違えてしまいました」
「俺は人間の魔法使いだ。バインド!」とアレクは光の拘束魔法を出すが間一髪で逃げられてしまう。
「危ない、危ない。人間の魔法使いですか。これは珍しい。デウスに感謝を」再び距離を空けたルカ司教がアレクとセイガに向かい何かしようとしたとき、音も無くルカ司教の背後に回ったエルがルカ司教の肩を押さえこう言った「汝、動くなかれ」
途端、ルカ司教の動きが止まった。顔は驚愕に染まっている。
「ふう、やっかいな奴だったな。エル、ありがとう」
「さて、ルカ司教、何故このような真似を?」
「私はただ、神狼様をこの目でじっくりと見てみたかっただけです。けれど驚きました。人間の魔法使いがいるとは。さらに聖女様まで」
「余計な真似をするなよ。この部屋は結界で守られている。それじゃあ、皆を正気に戻すか」
アレクは国王を始め、騎士や重鎮を次々と回復魔法で正気に戻していった。
正気に戻った国王はアレクを見て「あなたは・・・」と呟くと、セイガがアレクの代わりに答えた。
「レオポルド殿、こちらは結界の向こう側から来たアレキサンダー王子だ。魔法使いでもある」
「なんと、人間の魔法使いと・・そちらは?」
「こちらは、亡きユークリッド王国の聖女エル様だ。そして竜人国のロン王子」
「キュイ」とロンがポシェットから頭を出した。
「ところで、レオポルド殿、何故このようなことになった。何かあった場合には熊、蛇、鳥の各国が集まり対処することになっていたのではないか?」セイガが強く問うと
「実は熊、蛇、鳥の代表がここ獅子国にあつまったのですが、聖ピウス皇国の罠に嵌まり、正教会に幽閉されているのです。正教会は彼らを人質に取り、魔力の強い者を出せと圧力をかけているのです」
「成程、ルカ司教、各国の代表者はどこにいる?」
「私が話すとでも・・ひっ」エルが司教の肩に手を置いた。
「正直に答えなさい」
「正教会の地下牢に。彼らは魔力を有していたので魔力を搾り取った後は殺すつもりでした」
「正教会の地下牢だな。わかった。エル、アレク、急行するぞ」
エルは素早くセイガの上に乗り、アレクは光の拘束魔法でルカ司教を拘束すると、彼と一緒に正教会へと向かった。
残された国王らは呆然と彼らを見送っていた。