132. 活気のない街
アレク達は途中のニキという街で物品を補充した後、王都レグルスへ向かった。
獅子国は肉食系の住人が多いせいか、畜産が盛んだった。街を出るとすぐ広々とした牧場があり牛や羊がそこかしこで草を食んでいる。時々大きな獣舎が見えるが、養豚も盛んらしい。
「どう?獅子国の印象は」
「穏やかで良い国だな」
「よく他国から肉食系だから、荒々しくて怖いイメージがあるそうだけど、食が満ちていればこんな穏やかな国はないんだ」
「でも、最近は薬欲しさの強盗や人攫いが増えているよ。特に王都はひどい。役人は全然取り締まらないし」とジルがそう言うと
「民は声を上げないのかしら」とエルが疑問を口にする。
「そうすると、例の薬を嗅がされて骨抜きになっちまう。俺達はあの薬には抵抗できないんだ」テツは拳を握り締めてそういった。
「だから、住人は無気力になってどうにでもなれって感じ。王都はいまじゃ活気のない街といわれてるね」
その活気のない街が遠目でもわかるくらい近くなって来ていたが、騎馬の一隊がこちらに向かってくるのが見えた。先頭の騎馬が止まれという合図をだし、こちらに近づいてきた。
「神狼様のご一行とお見受けするが」
セイガが顔を出し、馬車を飛び降りて変身した。
「そうだよ、僕に何か用?」
「これはこれは。私は近衛第一師団長のガイアと申します。国王の命によりお迎えに参りました。しかし、見事な銀の毛並みですなあ。改めて感服いたしました」と笑顔を見せ大仰な仕草をする。
「そう?僕はセイガ。宜しくね」と言ってアレク達を見る。「どうする?」
「国王の命令じゃ断れないだろう。ジル達も諦めて付いてきてくれ」
「仕方ないね。目と鼻の先に我が家があるんだけど」
「では、ご同行願います」と言ってガイアは騎士の一団に合図を送った。
何ごともなく王都の城門をくぐり、彼らは王都レグルスへ入った。
「活気のない街と聞いていたがここまでとはな」と低い声でアレクはジルに言った。
「そうだろう?一昔前では獣人国一番の活気に溢れる街だったなんて信じられないだろ」
街の空気は澱んでいた。そこかしこに薬でラリった奴が寝転んでいる。そんな中を住人たちはうつろな表情をしながらよけて通っている。時々、悲鳴が聞こえるが住人達は我関せずといった様子で見向きもしない。日常茶飯事なのだろう。
騎士達は馬を降り、通りで寝転んで居る者を脇に避けながら馬車の通り道を作っていた。
ガイアは隣に歩いているセイガに向かって
「セイガ様、これが我が獅子国の惨状です。まだ王都だけで済んでいますが獅子国全体に広がればこの国は終わりです。私達も手をこまねいてないでこの惨状をなんとかしようといたしましたが、いかんせんあの薬には我々は太刀打ちできません」
セイガは頷いて
「国王は僕らになんとかして欲しいんだね」