129. 獅子国入国前夜 ①
アレク達がジル達3人組と旅を始めてから2日たった。明日には獅子の国に入れるとのことだ。
「でも何だなあ、こんなに気楽な旅は初めてだ」とテツがしみじみと呟いた。
夕飯を終え、皆でたき火を囲んでいた。
「ん、何で?」
「だって、魔獣や盗賊にビクビクしながら夜を明かしたことなんてないぜ」
「ロン様々だな」
「キュイ」とロンが得意気に胸を張る。
夜は簡易テントと馬車に分かれて夜を明かしていたが、周囲にはロンの強力な結界が張りめぐされている。だから、寝ずの番もする必要がないし魔獣や盗賊たちを気にせず眠れる。
「それだけじゃないさ」とジル。
「アレクの作った飯の美味いことと言ったら。街一番のレストランでも敵わない」
「ほんと、それは言える」寡黙なサンバが頷いた。
「ありがとう」と答えてアレクは火を見つめた。
「さて、明日は獅子の国に入るんだけどさ、あんた達通行証は持ってるの?」
「通行証?」
「その分じゃ持っていないね。獣人達はお互いの国を行き来するのに通行証が必要なんだ」
「僕達はオオカミ族なんだぜ。獣人国の制度に縛られないよ」とセイガが反論した。
「けどねえ、最近何かと物騒だろう?変な薬を使った盗賊がいたり」
「じゃあ、こうすれば」と言って、セイガは巨大な神狼へと変身した。
「ふえっ」と変な声を出して3人が固まった。
「僕は神狼のセイガだ。代替わりしたので諸国を見回っている」
彼らは途端にひれ伏した。
「知らぬ事とはいえ失礼いたしました。そういうことだったんですね。オオカミ族の方達がこの辺りに来るなんておかしいと思っていました。ロン様のことも納得です」
「セイガ様、門番の前で今一度変身して貰えませんか。そうすれば獅子の国には問題なく入れますから」
「だそうだよ、セイガ。元に戻れ」
普通に話をしているアレクに三人は目を丸くして見ている。
一瞬で戻ったセイガは「アレクはこう見えても僕の契約者だ。彼は人間だよ。でも魔の森の結界の向こうのね。変な誤解をされないようオオカミ獣人に化けてもらってる」
「そして、エルは今は亡きユークリッド王国の聖女だ」
三人は固まったまま視線をエルに移した。
暫くしてサンバが口を開いた。
「聖女様が何故我が獅子国へ。理由をお聞かせ下さい」