126. 獣人国の事情
「ほら、出来たぞ」
簡易テーブルの上に鍋が置かれ、熱々のチーズが入っている。
「このパンや野菜をチーズに付けて食べるんだ」と言ってアレクはフォークの先にパンを刺しとろとろのチーズに浸した。引き上げてふうふう言って食べる。
「うまい!」といってコップに入っているワインを飲んだ。
早速、セイガが人間型に変身しアレクと同じようにパンを浸して食べた。
「うわっ、何これ。チーズだけなのにむちゃくちゃ美味しい」
「バアか。チーズの中に秘伝のソースがはいってるの。エルも食べてみろ」
「うん。えっ、本当。すごく美味しい」
鍋にあったチーズと用意した具材は瞬く間になくなり、皆、大満足の夕食だった。
「さて、セイガ、この地図をみると俺達は獣人国を通らなければ聖ピウス皇国にはたどり着けないことになっている。獣人国ってどんな国なんだ?」
「皆、獣人国って一括りにして言っているけれど、人間でいうところの連合国といっていいと思う。獅子族が支配する地域、熊族が支配する地域という具合に、種族毎に分かれ制度も違う。何年かに一度全種族が集まって王様を決める。王様とはいってもまとめ役かな。ここ何年かは獅子族が王位を継いでいたがその前は熊族だった。主立った種族は獅子、熊、蛇、鳥かな。弱くて王座につけない種族は草食系か雑色系だな。弱い種族は、どの国でもみかける。オオカミは独自の縄張りがあり、ここには所属していない」
「そうか。気がかりなのは獅子族だな。猫や虎、ヒョウもあるのか?」
「あるよ。猫は商人が多いし、虎は傭兵、ヒョウは変わり者が多くて国を形成していない。こいつらは単独行動を好むんだ。国を作ろうなんてさらさら思っていない」
「地図には書かれていないが、俺達はどの種族の国を通っていくことになるんだ?」
「僕の知識も古いからあまり宛てにはできないけど、獅子は確実だし、熊もそうかな。蛇や鳥は大陸南部の海に近い方だから通らないと思う」
「何故、オオカミは別なんだ?」
「寒冷地にいるからさ。皆、温暖な地域に好んで住みたがる」
「なるほどな。獅子か。恐らく、聖ピウス皇国に相当付け入れられているな」
「えっ、どうして?」
「マタタビだよ。アヘンと同じように理性を狂わす効果がある。と言うことは人間を相当警戒しているともいえる」
「厄介だね。ねえ、魔法で尻尾とか耳とか変化できないの?」
「ううん、難しいな。認識阻害魔法を俺とエルにかけるか」
「僕と同じようにオオカミにしなよ。そうすれば理不尽な目に遭わないし、旅をしているとでもいえば奇異な目でみられることもない」
「わかった。そうしよう」