125.出国
ーーー聖ピウス皇国教皇庁
「うっ」
教皇ザビエルが胸を押さえる。
「どうなされました」 あわてて周りに居た司教達が教皇を囲む。
「いや、どうもエミリオが儚くなったようだ」
「エミリオ司教が。まさか」
「口惜しいがこれで竜人国への足がかりが無くなったということだ。枢機卿マルコをここに呼んでくれ」
アレク達は順調に旅を続けていた。途中コンガ村に寄ったがまだセンドーサ領への避難から戻ってないらしく無人だった。そして領都シギルには入り物資を調達したあと東のレパント侯爵領都イグニスへ入った。
「ここまで1週間か。順調だな。この地図によると、あと2日ほど南に下ったら来たときの城門に着くらしい」 シギルで購入した地図を見ながらアレクはそう言った。
「竜人国かあ。いろいろあったけど、なんだか名残惜しいね」
「ロンは寂しくない?」
「キュイキューイ」と首を振る。
「エル達がいるから全然寂しくないってさ」
「あはは、ロンやせ我慢してる」とエルが笑うと
ロンはボンッと人間型に変わり「やせ我慢なんかしてないよ」と口をとがらせ抗議した。
「これから何が起こるかワクワクしてるんだ」
「ワクワクは良いが、ロン、俺達が結界を通る時は緩めるよう竜王様に言っておいてくれ」
「勿論、もう言ってあるよ。通る時合図をして欲しいって。それで一時的に開けるって」
「了解」
2日後、彼らは城門の前に来ていた。城門を守る兵士もかなり減っている。現在、鎖国中ともあって出て行く者だけを検めているようだがそれすらも見当たらない。詰め所から兵士が2人出てきたが、ロンの姿を見るとザッと跪いた。どうも王都から来ているようだった。
「そんなにかしこまらなくていいよ。ただ、僕らが出て行く時に怪しい者がいないか見張ってて欲しい」
「はっ」
他の兵士も出てきて辺りを警戒する。
「じゃあ、結界を抜けるよ」
クロックに合図を送り、馬車は静かに走り出した。城門をくぐると何か一瞬ユワンとした感じがしたが他に違和感なく城門を抜け出した。後ろを振り返ると薄い膜のようなものが再び辺りを覆っていた。
「もう、竜人国じゃないのね。結界を出たということかしら」
「うん、僕が念話でお婆様に合図を送ったから」とロンは誇らしそうだ。
「来たときの草原で今夜は泊まろう。クロック達ものびのびと過ごせるし」
「ねえ、今晩は何を食べるの?」
「センドーサ領でたっぷりチーズを仕入れたから、チーズフォンデュにするか」
「どんな料理?」尻尾を振りながらセイガがすかさず聞いた。
「それは食べてからのお楽しみ」
そうこうする内に森を抜け、広々とした草原に出た。
アレクはクロックとクロムを馬車から離してやると嬉しそうに嘶いて走り出した。
「さて、野営の準備をするぞ」