122. 次期伯爵の苦悩 ①
廃墟と化した教会を後にして、アレク達は伯爵邸に戻って来た。
正面玄関前には長男のクリスをはじめ次男と長女、正妻が待っていた。
「父上」
「ああ、クリス、皆は無事か」
「はい。第二王子殿下と皆さんのお陰で何ごともなく」
そこへロンがちょこちょこと現れた。
「エル、アレク、セイガ。無事だったんだね」
「ロン、よく頑張ったね」
「えへへ、こっちはタンガも含めて大丈夫さ」
「皆さん、お疲れ様でした。無事でなによりです」
次期伯爵が不思議そうにアレク達を見る。
「ザカリア次期伯爵、私は隣のセンドーサ伯爵の弟、タンガ・センドーサです。そしてこちらが第二王子殿下のロン様です」
次期伯爵は跪き「知らぬこととは言え、ご無礼いたしました。また、この度は私の家族を守って頂きありがとうございます」と頭を下げた。
「あと、こちらがシュトラウス国第二王子アレキサンダー殿、亡ユークリッド王国の聖女エル様と神狼セイガ殿です」 タンガがエル達を紹介した。
次期伯爵は驚いた顔をしたが一つ頷いて
「さようでございましたか。エル様、貴女が亡きユークリッド王国の。すばらしい力をお持ちだ。それとアレキサンダー王子殿下とセイガ殿。何とお礼を言っていいか」
「ところで次期伯爵殿、貴方の四男ヒース殿の母上は?」
「ヒースをご存じか?」
「実は我々はセンドーサ領にてヒース殿の知らせを受けてここへ参ったのです」
「なんと!別邸におりますゆえすぐにご案内いたします」
次期伯爵サイレスは本邸にほど近い別邸にアレク達を案内した。
「アイラ、無事か?」と邸の中へ入って行くと「サイラス!良くご無事で」という言葉とともに1人の婦人が抱きついてきた。
「アイラ、お客人の前だぞ」
「私としたことが。失礼いたしました」と顔を赤くする。
「アイラ、ヒースをセンドーサ領にやったのか」
「はい。本邸の皆様方のように見張られていませんでしたのでセンドーサ領に助けを求めにやらせました」
「この方達はセンドーサ領でヒースに会い、ここまで助けに来てくれたのだ」
「まあ、本当ですか。それでヒースは」
「兄のセンドーサ伯爵が保護しております。無事ですよ」
「ありがとうございます。何とお礼をいったらいいか」と言って泣き崩れた。
「あと、次期伯爵、お話があるので人払い願えますか」
エルはそう言って真っ直ぐに次期伯爵を見た。