121, 正教会の最後 ②
ギャオーン 次期伯爵は辺りの壁を突き崩した。
「次期伯爵閣下、落ち着いて下さい!」落ちてくる瓦礫を避けながらエルは叫んだ。
巨大な竜は赤い目でエルを睨み付けた。エルの赤い瞳が光る。
「アイレイド」
ピタっと竜の動きが止まる。
「私はあなたの味方です。伯爵邸の皆様は無事保護しています」
すると竜が変化し、元の次期伯爵に戻る。
「貴様は何者だ」
「私はエル。この国の第二王子ロンと旅する者」
「第二王子殿下だと」
そこへ瓦礫をよけてセイガが姿を現した。
「エル、無事か。壁が崩れたときはどうなるかと思った」
「フェンリル・・・」伯爵代理が驚愕する。
「ああ、これ?」と言って、巨大なオオカミの姿から元のサイズにもどった。
「それよりも閣下、エミリオ司教はどこに行ったのですか」
次期伯爵は首を振り「奴は私の血を啜った後どこかにいった。血を啜られて朦朧としている私に何かのませてな。私はどうなってしまったんだ」
「恐らく自分の血を飲ませたのでしょう。あなたが司教に逆らえないように」
「くそっ、いつか八つ裂きにしてやろうと思っていたのに」
「大丈夫です。あなたが司教に逆らえないのと同じに司教は私に逆らえないでしょう」
「あなたは・・・・」
次期伯爵に血を飲ませた後、急いで階段をあがってきたエミリオ司教は教会内での戦闘を目にした。屈強なはずの聖騎士が次々と拘束されている。さらにドラゴンヴァンパイアになった兵士が塵になっていく様を目撃した。
「聖魔法使いか」
瞬時に移動し、アレクの背後に現れる。アレクは一閃、剣を閃かせて背後の敵を切るが、瞬時に移動した司教は祭壇の上に立った。
「これはこれは。かなりやりますな。聖ピウス皇国の12柱が1人エミリオ・ヴァンデミールに反応できるとは」
「お前が司教か。よくもアヘンなどと汚いまねをしてくれたな」
アレクが司教を睨んで怒鳴った。
「アイレイド」
瞬間、アレクの身体が硬直した。
「ダメですよ。我々ヴァンパイアの目をみては。どうです?動けないでしょう。いくら聖魔法使いでも動けなければ私の敵ではない。さて、あなたをどうしましょうか」
薄ら笑いを浮かべながら祭壇から降りてくる。「やはり邪魔者は消すしかないのです。残念ですが」
そして短剣ををアレクの胸に刺そうとしたその時、
「待ちなさい!」とエルの声が響いた。
振り返ったエミリオ司教の顔が驚愕に変わる。そこにはペンダントを握りしめたエルが立っていた。