119. 正教会の最後 ①
カツン、カツン、地下へ続く階段に靴音が響く。
「やあ、伯爵代理、ご機嫌はいかがかな?」
「いいわけないだろう」
「ふふふ、そうそうご長男には隣のセンドーサ領に使者に立って貰いました」
「なんだと」
「いやあ、優秀なご長男ですな。快く引き受けてくれました」
「ところで我々もそろそろここを引き払おうと考えていましてね」
「・・・・・」
「あなたも用済みということになります。引き払う前にあなたの血液を多目に分けていただきたいのですよ」
エミリオ司教は牢の鍵を取りだし開けようとした。が、ふと階段の方に目を向ける。
「おや、どなたかいらしたようだ」
陽が昇りきった朝だというのに、通りには誰もいない。
アレンとエル、セイガは正教会への道を走っていた。伯爵邸の正面玄関を見張っていた騎士を拘束し伯爵代理の事を聞き出した。なんと伯爵代理の血を使い、あのおぞましいドラゴンヴァンパイアを作り出していたというのだ。しかも明日、クリスを使者としてセンドーサ領に送り出したあと、伯爵代理とその一家を始末するつもりだという。伯爵代理は地下牢に幽閉されているとのことだった。
「急がないとまずいな。伯爵代理が危ない」
前方に正教会の建物が見えてくる。教会の前にはアヘンを求める人々がいまだ列をなしている。教会の神父が配布はないと言っているようだが、それでも人々は待ち続けている。アヘンとは人々を狂わせる薬物だとアレクは今更ながら思った。
その人々に紛れて、アレク達は教会へと忍びこんだ。教会の中に入った途端、誰何されたが構わず奥へ進む。それを阻止すべく聖騎士達が動き出した。
「誰だ。お前達は。この奥に何の用がある」
セイガが叫んだ。「アレク、この先に地下に向かう階段がある」
「ここは俺が食い止める。エル、セイガの後に続け」
「わかった」
セイガは術式をとき神狼の姿に変化する。階段を守る聖騎士をなぎ倒しエルを階段へと導いた。
「エル、先にいって」
「わかった」
エルは後ろをセイガに任せ地下へと続く階段を駆け下りていった。
階段を降りきった先に地下牢が見えた。そこには壁に繋がれた人物がいた。
「伯爵代理閣下ですか」
「逃げろ・・・私から逃げてくれ・・奴は私をドラゴンヴァンパイアに・・」
うわあああ、という叫び声と共に壁から鎖が外れ地下牢が崩れ落ち、そこに巨大な竜が出現した。