117. 伯爵邸奪還 ①
まだ薄暗い朝靄の中、ひっそりと伯爵邸に向かっている人影があった。
「悪いな、ジョン、道案内までさせて」
「どうってことないです。それよりほら、あそこが伯爵邸です。出入り口は正面玄関と厨房の横、あと裏庭に面した3カ所です」
「ありがとう、助かった。後は俺達がやる。お前はお袋さんのところへ帰れ」
「わかりました。どうかお気を付けて」そう言ってジョンは帰っていった。
「どうだった、セイガ」
「厨房の方は2人、裏庭の方も2人見張りがいる」
「俺とセイガは厨房、タンガとエル,ロンは裏庭に廻ってくれ」
「了解」
厨房横の出入り口には2人の騎士がいた。竜人国の騎士ではないようだ。ならば聖騎士というやつか。となるとヴァンパイアの可能性が高い。奴らは夜目が効く。セイガにおびき出すように言った。
ガサガサとセイガが音を立てて走った。聖騎士達がそちらを睨む。
「なんだ、野犬か」と視線を戻した隙にすかさず「バインド」とアレクが魔法を放った。
1人を拘束し、1人が身構える。アレクが剣を振ると素早い動きで応戦してきた。剣を合わしすかさず「バインド」と魔法を放つとコウモリになって逃れようとしてきたが、アレクの拘束魔法は逃さなかった。
「やはりヴァンパイアだったか」
「お前、我々の正体をしっているのか」
「ああ、だから拘束魔法にしたのさ。どうだ、逃れられまい」
「くそっ お前は一体誰だ。竜人国の者ではないな」
「さあな、一介の魔法使いというところかな」
「只人が我々に刃向かったらどうなるかみていろ」
「ああ、お帰りセイガ。では中に入ろう」
裏庭に廻ったタンガとエル、ロンはすぐに聖騎士達に出くわした。聖騎士は物も言わずすぐに斬りかかってきた。タンガはすぐに応戦したがエルは赤い瞳をもう1人の聖騎士にむけた。すると聖騎士は硬直したように動かなくなる。顔は驚愕したままだ。
「タンガ、私に任せて」
振り向いたタンガはエルの近くまで移動する。追ってきた聖騎士はやはり驚愕した顔でエルを見た。
「動くな」赤い瞳を光らせながら彼女が命じた。すると彼もまた硬直したように動かなくなった。
「流石です。やはりこいつらもヴァンパイアでしたか」
「正教会の者達でしょう。それより早く中に入りましょう」
タンガとエルは裏庭の出入り口から中に入った。入ると厨房に向けて走る。いくつかの部屋を通り過ぎたところでアレクとセイガに合流した。
「よし、見たところ中には奴らはいないようだ。ロン頼む」
「キュイ」
ロンが言うと邸が薄い膜で覆われた。