115. ゾルアの惨劇 ③
「部屋を二部屋借りたいんだ。あと厨房も借りたいんだが」
アレクは扉を開けてくれた少年に頼んだ。見たところ12歳くらいだ。
「うん、いいよ。誰もお客はいないから好きに使って」
「お前1人住んでいるのか?」
「母さんが伏せってて。父さんは・・・・殺された、多分」
「殺された?誰に」
「父さん、通風を患ってて。教会の薬を飲んでたんだ。痛みがなくなったって元気になったんだけど、そのうち薬なしだと暴れるようになって。教会に薬を取りに行ったきり。噂じゃ教会に薬をもらいに行った人は殆ど殺されたそうだよ。それ聞いて母さん、寝込んじまった」
「お前、飯はちゃんと食ってるか?」
「父さんが薬でおかしくなって家の金全部持っていってしまったから、家にあるものだけで食いつないできたんだ。お客なんて全然こなかったし。でも、あんた達が泊まってくれたら少しは金が入るから」
「そうか。じゃあ晩飯はお前と母親の分も作ってやるよ」
「本当か。もうお客を取るの止めようかと思ったけど良かったよ」
「う~ん、良い匂い。これはビーフシチューかな?あと、鳥のスープ?」
セイガが慌ただしく階段を降りてきて言った。
「食い物の時は一段と早いな」
「もちろん、僕、育ち盛りだからね」
「おい、お前は・・」
「はい、ジョンです」
「ジョン、お袋さんに鳥のスープとパンを持って行ってやれ。あとこれはお前の分のビーフシチューだ。一緒に持っていきな」
「ありがとうございますっ。すごい美味しそうですね」
「アレクの料理は本当に美味いんだ」尻尾を振りながらセイガ答える。
「セイガ、皆を呼んでこい」
「わかった」
食堂で皆で食事を取っていると、ジョンにささえられて1人の女性が階段を下りてきた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。この宿の女将のシエラでございます。先程は美味しいスープをありがとうございました」
「立っているとお辛いでしょう。ここにかけてください」とアレクが椅子を勧める。
「事情は聞きました。大変でしたね」
「はい。お恥ずかしい限りです」
「私の具合が良くなったら、遠方の親戚を頼ろうと思っています。もうこの街には恐ろしくて居られません。近隣の者もこの街を出ていくものが絶えないと聞いています」
「女将さんは貴族に縁のある方ですか?言葉遣いがとても丁寧だ」
「主人は隣の領の子爵家の三男で騎士をしていたのですが体を悪くしてここで宿屋を開きました。私は男爵家の四女です」
「もしやご主人はアモリー子爵のご子息で名をサガンといいませんでしたか?」
「はい、そうですが」
「やっぱり。私はタンガと言い、やはり王城の騎士をしております」
「タンガ様と言えばお隣のセンドーサ伯爵家の。まあ、これは失礼いたしました」
「実は王命で正教会を調べるべくここに来ました。それにしてもひどい。このゾルアの街は死の街といっていいくらいだ」