114. ゾルアの惨劇 ②
「おいっ、しっかりしろ」タンガが少女の肩を揺さぶる。
「なんでこの男が殺されたんだ」
「ひっ」
「おいタンガ、怯えているじゃないか」
「ああ、悪い。だが、何の理由もなしに人の家に踏み込んで容赦なく切るか?」
「あの、それは多分お父さんが嘆願書を正教会に出したからだと思います。長い間、腰痛に苦しめられていたお父さんは、教会からもらった薬がすごく良く効いたと喜んでいたんです。でも、その内教会から貰える薬が少なくなってきて。同じ痛みで苦しんでいる人と話し合って少しでも多く痛みで苦しんでいる人を優先して分けて貰えるよう嘆願書を出したんです。でも、薬が配布されることはありませんでした」
「嘆願書はいつ出したんだ?」
「たしか、5日前だったと思います」
「教会からは何か連絡はきたか」
「それが全然。ところが、あっちこっちで人が殺されるようになって・・・」
「最初は、薬で頭がおかしくなった人が暴れたからと言うことでしたが、教会の悪口をいっている人や伯爵様に嘆願書を出した人まで。知っている人は皆怖がって街の外に出て行ってしまいました。でもお父さんは腰の痛みがひどくて・・」といって少女は泣き出した。
「そうか。辛かったな」
「随分ひどいやり口だね」セイガが憤って言った。
「ああ。奴らはアヘンが手に入らなくて焦っている。暴動が起こる前に恐怖で抑え込もうとしているんだろう。それにしてもひどいな」
「だが、兵士達が唯々諾々とこんな命令きくとは思えんが」
「そこがアヘンの怖いところだ。アヘンのためならなんでもやる」
「そうか。そういうことか。でもアヘンは足りなくなっているんだろう?兵士達だっていつまでも黙っていやしないぞ。兵士達が暴動の起因になるなんてことにもなりかねない」
「多分、一般人の次は兵士達の虐殺が起こる。アヘンで弱っている兵士をそれこそドラゴンヴァンパイアみたいな奴らが殺しまくるだろう」
「くそっ。何が正教会だっ。教会っていうのは神様を崇めて善行をするところじゃねえのか。まるで悪魔じゃねえか」
エルが静かに言った。「許さない。もし彼らが本当にシン・サクライの部下だとしたらこれほどの裏切りはないわ」
「何にせよ、正教会に乗り込む算段をしよう」
その後彼らは宿を求めて街のあちこちを訪ねたが、宿の主達はぴったりと戸口を閉め、断られ続けた。
街外れの一件の宿に着いた時は、アレク達は相当疲れていた。
「今晩は。部屋を借りたいんだが」扉を叩いてアレクが言う。
そっと顔をみせた少年は「うちは料理とか出せないけどそれでもいいなら・・」
「ああ、それで構わない。料理は自分達で何とかするから部屋と厩を貸してくれないか」