113. ゾルアの惨劇 ①
ゾルアのピウス正教会の前にはアヘンを求めて毎日長蛇の列が並ぶ。だが、その殆どがアヘンを得られることはない。その代わり怒号や小さないざこざがあちこちで絶え間なく起こっている。そして無慈悲な声、今日の配布は終了したというのを聞くと辺りは阿鼻叫喚の嵐に見舞われる。
「司教様、アヘンの在庫が殆ど無くなりました」
「ううむ、この現状をどうしても聖ピウス皇国に仰がねば。この前放った密使はまだ戻らぬか?」
「残念ながら」
「抑えられるのも時間の問題だ。中毒者どもが暴動を起こし、ここに押し寄せてくるぞ」
「ここを放棄することも視野に入れてはと」
「ここまで来て。背に腹は代えられぬか。放棄の準備を進めよ」
「ちょっと待った。俺達に厄介事を押しつけて自分達はトンづらか」
騎士隊長のザンクがそこにいた。
「ザンク、もしそうだと言ったら・・・」司祭の赤い目が光り出す。
「お前達は私には逆らえないはずだ」
ザンクは目を背けながら「くそっ」とつぶやいた。
「お前達は暴動が起きる前に、危なそうな奴を始末するんだ」
街で悲鳴が上がる。
「た、たすけてくれ。俺はなにもしちゃいねえ。本当だ。だから」
ざしゅっと肉が切れる音がする。男が骸と成り果てる。
「おい、次だ」
ここ最近のゾルアの街で見慣れた光景だ。兵士達が中毒者を次々と殺めていく。中毒者をかばった者も容赦なく切り捨てていく。街は死の匂いが立ちこめていた。
そんな中、アレク達一行はゾルアの街に着いた。
「何か、嫌なにおいが立ちこめているね」セイガは鼻にしわを寄せながら呟いた。
「キュイ」同時にロンも鼻を押さえる。
「死臭だ。処理されてない死体があるのだろう」
「なんだか人通りも少ないみたい」辺りを窺いながらエルが言った。
アレク達の馬車を追い越して、兵士達が走って行く。
「いたぞ。この家を家捜ししろ」兵士の怒号が聞こえる。
「いやあ、お父さんを助けて。何も悪い事してないじゃない」
「うるさいっ」
「キャア」
何かを切るような音。そして静寂。
返り血を浴びた兵士達が、次の場所へ移っていく。
アレク達は急いでその家に向かった。
中には瀕死の少女とすでに事切れている父親がいた。
アレクは直ぐに少女に回復魔法をかけ、声をかけた。
「大丈夫か。何があった」
「あ、あ、兵士が突然、家に押しかけてきて。お父さんが、」とあたりを見廻し父親を見るやいなや泣き叫んだ。
「お父さんっ、いやあああ」