110. エルの覚醒 ③
翌朝、アレク達は馬車でゾルアに向かった。馬車をこの村に置いていく選択肢もあったがクロックがそれを許さなかった。彼は一緒に行く気満々で、馬車の前から動こうとはしなかった。
アレクは苦笑して「わかったよ、クロック。じゃあ、俺達は馬車で向かおう」
ゾルアまで二日の距離である。街道の左手、南側には鬱蒼とした森が続いている。この森が聖ピウス皇国との国境となる。昔から魔獣の生息地として恐れられてきた森だった。街道脇に魔獣よけの柵が設けられており、領都ゾルアまで続いていた。
反対の右手北側には麦畑や牧場が広がっており、のどかな田園風景が広がっていた。
「こうして見ると、あの騒動がうそのような牧歌的風景だね」
セイガが尻尾を揺らしながら御者台のアレクに話しかけた。
「そうだな。アヘンやヴァンパイアなんてものがなくなれば、ここは天国だな」
荷台にいるエルにタンガが話かけた。
「エルさん、大丈夫ですか。なんか元気ないみたいだけど」
「キュイ」
「あ、ええ、大丈夫です。なんだか疲れているみたいで」
「次の宿場町までもう少しです。今度はゆっくり休みましょう」
馬車は順調に進み、次の宿場町ヘトへ着いた。
ヘトは宿場町として栄えてきたがここ最近、隊商が通らなくなり閑散としていた。人気のない大通りを抜け、右手に大きな隊商宿が見える。アレクは馬車を横付けし宿の中に入って行った。
「いらっしゃい」
「今夜の宿を頼みたいんだが」
「何名様ですか」
「四人だ。二部屋頼む」
「1人500シリングです。食事を付けると800シリングになります」
「わかった。あと馬の世話も頼む」
「そうなりますと、宿泊代が3200シリングと馬の世話代で300シリング頂きます」
「随分高いな」
「お客さんも見たでしょう。隊商が通らなくなって商売あがったりなんです」
「しょうがないか。殆どの宿屋は閉めちまっているし。じゃあ、これで」
「はい、ありがとうございます。部屋は2階の奥の二部屋になります」
部屋に落ち着くと、タンガが言いにくそうにアレクに
「エルさんなんですがどうも塞ぎ込んでいるようで」と言った。
「エルが?どうしたんだろう。わかった。聞きに行ってみよう」
ノックをして隣の部屋に入った。
「エル、いるか?話がある」
「キュイ」
そこにいたのは黒のローブを纏った1人の美しい女性だった。
通貨は1シリング10円と考えてます。エルはどうなっちゃったんでしょう。