108. エルの覚醒 ①
「エル、・・・エル!」 アレクの呼びかけにエルはハッと我に返った。
「ごめん、アレク。何だか私・・・」
「詳しい話は後で聞く。それよりもまず、こいつだ」と縛られている大男の方を向く。
「おい、お前は誰だ。何故ここにいる?」アレクが尋ねるが沈黙したままだ。
「アレク。私が」エルはアレクを遮り質問した。
「答えよ。お前は誰だ。どうしてここいいる?」
すると、大男がエルの方を向いて話しだした。
「俺は護衛騎士のゲーツ。騎士隊長のザンク様の命でここを通る商人たちを狙っていました」
「商人を、何故?」
「ゾルアは今、物資不足に陥っています。ですので商人達の金品を強奪しろと」
「それでも貴様らは騎士か!」タンガが怒鳴った。
それには答えず大男は再び沈黙した。
「ところでお前達はヴァンパイア特有の能力を何処で身に付けた」
大男の顔が歪む。だがエルは追求を緩めない。
「言え」
「エミリオ司教が竜人をヴァンパイア化させる実験をしていて成功した。俺はその成功例だ。だが実験がどんなものかは知らない。眠っている内に変化した」
「ヴァンパイア化の実験か。エル、心当たりはあるか?」
「ない。でも、許せない。こんな化け物を生み出すなんて」
逃げていた村人と村長が宿屋の周りに集まってきた。そして縛られた大男をみると村人が歓喜の声をあげた。
「ああ、明日から枕を高くして寝られる」
「こいつめ、俺の嫁を返せ」
「俺の妹だ。どこへやった」
次々に浴びせられる言葉に
「ふん、そんなもの日干しになってお前らの掘った穴に入ってるよ。残念だったな。お前らの番が来なくて」
そんな言葉に村人は青くなって後じさった。そして
「この野郎!」
怒りに任せて鉈を大男に浴びせるが、割れた額が元にもどるのは早かった。
「畜生、畜生」 何度も鉈を振り上げるが無駄だった。
遠目に見ていたアレク達が止めに入った。
「やめろ。そんな事をしても無駄だ」
村長が前に出てお辞儀をした。
「こいつらを退治してくだすった方々ですか。私はこの村の村長でイザリと申します。この村を化け物から開放して頂いてありがとうございます」
「俺はアレク。ところで村長、こいつをどうしたい?聞けばゾルアから派遣されてきた事は本当らしい。しかし、いつまでもこうして拘束しておくことはできないが」
「そうですな。ゾルアに送り返しもできませぬ。いっそ先程のように灰にできればと。皆もそれでいいな?」
村人が頷いた。
エルがペンダントを握りしめる。とペンダントが赤く輝きだした。
「な、なにを・・・。やめてくれ、俺達は不死身のはずだなのに・・」
大男は灰になって夜風に舞った。
いつも読んでいただきありがとうございます。エルが覚醒し始めました。まだまだこれからですよ~。ところで、私用で1週間お休みいたします。1週間後ゾルアにてお会いしましょう。