106. ザカリア伯爵領での攻防 ③
静かだった村が俄に騒然となる。どうやら手に手に武器を取った村人がこの宿を取り囲んだようだ。
「面倒だな。ロン、結界を張れるか?」
「キュイ」 薄い膜が宿の周りに現れる。
「これで暫くはもつだろう」
外がざわついている。宿の中に入れないことにとまどっているようだ。
「助けてくれ~!」宿のおかみと亭主が悲鳴を上げた。けれど村人は入れない。
「畜生!」 二人が縛られながら睨んでくる。
「残念だったな。その騎士様という化け物がやってくるまで少し待て」
窓の外を窺っているタンガに
「村人は何人くらいだ?」とアレクが問うと
「30人くらいか」
「そうか。彼らをヴァンパイアから守れるか?」
「奴ら次第だな。まあ、俺達は敵認定されているしな」
タンガは笑って結界の外へ出て行った。殺気立つ村人に向けて話しかける。
「俺達は、隣のセンドーサ領から視察に来た者だ。商人や旅人達が行方不明になっている原因の究明に来た。宿の主人におおよそのことは聞いた。だが、お前達は脅されていたんだろう?俺達は元凶となる騎士達を討伐しよう。だから、武器を納めてくれないか?でなければ俺達は敵対したとみなしてお前達も討伐しなければならない」
村人達はお互いに顔を見合わせあっていた。若い男の一人が前に出て、
「あいつらは化け物だ。お前達が討伐できるかなんてわからないだろうが」
「じゃあ、このままでいるか?旅人がこなければ奴らはお前ら村人の血を啜るんだろう?おとなしく化け物に食われ続けるかそれとも俺達に協力して討伐の手伝いして可能性にかけるかどっちだ?」
村人達から殺気が消え、お互いに顔を見合わせて
「俺、やだよ。干からびて死んじまうなんて」
「でも、どうやって奴らをやるんだよ。奴ら、死なねえんだよ。前に、商隊を護衛していた冒険者の男が胸に剣を突き立てたんだが、奴ら笑ってその剣を抜いて冒険者の首を引っこ抜きやがったんだ。その傷も直ぐに塞がったし」
「でも、このままじゃ俺らも餌食にされちまう」
「こんな時、村長様がいてくださったら」
すると先程の若い男が進みでて
「何をしたらいい?確かにこのままじゃ俺らが餌食になるのは時間の問題だ」
するとタンガは
「取り敢えず、結界内に入れ。話はそれからだ」と村人を宿屋の中に入れた。
「お疲れ、タンガ。さて、お前達、奴らは今、何をしている?」
アレクは鋭い目をして村人を見つめた。