105. ザカリア伯爵領での攻防 ②
アレク達は順調に街道を進んで行き、最初の宿泊地であるコンガ村に着いた。
コンガ村は特に変わったことは起きてないらしく、静かだった。そこでアレク達は、村で1件しかない宿屋に泊まった。
「お客さん方はどこからいらしったのですか?」
恰幅のよいおかみさんが夕食を並べながら聞いてきた。皿からは良い匂いがしている。
「いやね、ここ最近この街道を通る人がいなくて。もう宿をたたもうかと話していたんですよ。前はシギルからゾルアへの交通の要所として結構繁盛してたんですがね」
「シギルからだよ。ゾルアに行こうと思って。大事な用があるんだ」
「そうなんですね」とおかみさんは愛想笑いをして奥に引っ込んでいった。
セイガが鼻をヒクつかせて「アレク、これ」
「ああ、ねむり薬が入っている。浄化!」とそれぞれの皿に毒無効の浄化魔法をかけた。
「もう大丈夫だ。食べよう。食べたら、ねむり薬にやたれた振りをしろ」
そして食べ終わったあと椅子から転げ落ちて眠った振りをした。
「ふん、他愛ない。村人に連絡してこいつらを縛り上げて騎士様の所に連れて行こう。褒美に例の薬が貰えるって話だ。っとその前に金目のものをいただかなくっちゃ」
おかみさんとその旦那がそれぞれアレクや連れの騎士の懐を漁ろうとしたとき、ギュっとその手を掴んだ。
「なにすんだい!」おかみさんが大声を出したがアレクはその手を緩めることはない。旦那の方も他の騎士に取り押さえられていた。
「バインド」光の紐が彼らを縛り上げた。
「さあて、どういうことか話して貰おう」騎士の一人が剣を向けて尋問した。
二人は青くなって自分達は悪くない、全てはお上からの命令だとわめいていた。それに村人もグルでシギルからきた商人や旅人を襲っては金品を奪いお上に上納金を納めていたという。
「お上っていうのは盗賊なのか?」と聞くと、ゾルアから来た騎士様だという。
「それに・・・」おかみさんが何かいいかけると「おい!」と旦那がさえぎった。
「ん、なんだ」
「ど、どうか私達を助けてください。私達がこうでもしなきゃ私達が奴らの餌食になってしまう」
「どういうことかもっと詳しく話せ」
ーーー宿のおかみさんの話はこうだった。
1ヶ月程まえにこの村に2人の立派な服装の騎士が着たこと。彼らはゾルアから派遣されて来たと言っていたこと。村長の邸に留まったこと。そしてそれからは身の毛もよだつことが起こり始めたことを話した。
「身の毛のよだつこととは?」さらに追及すると
「最初は村の若い娘がいなくなり、大騒ぎで捜したところミイラみたいに日干しになって発見された。次には村の若い男が。屈強な男で誰も敵わなかったやつがだよ。で、どうもあの騎士達が怪しいということになったんだ。でも、その話をしていた男もいなくなり、村長も見かけなくなった。そうしたら、その騎士達が皆の前に出てきて『お前達もこうなりたくなければいうことをきけ』っていうんで言うとおりにしたんだ。で、宿に泊まった商人や旅人を彼らに出せば俺らが狙われることはなかったから村人とも相談して差し出してきたんだ」
「奴らは化け物だよ。俺は見たんだ。奴らが首に齧り付いて血をすすっているのを」
宿の亭主は、震えながらこう叫んだ。
「ヴァンパイアか」アレクはポツリともらした。