104. ザカリア伯爵領での攻防 ①
「ロン、もう少し頑張れるか?」
ロンにヒールを掛けながら俺は聞いた。
「キュイ」 ヒールで力を取り戻したロンが答える。
暫くすると、魔力が尽きたのか竜体を保持することが出来ずに次々と竜人の姿に戻り捕縛されていった。
「ロン、もう大丈夫だ、ご苦労様」
「キュイ」 ロンは力なく言うと眠りこんでしまった。
シギルの市街が落ち着きを取り戻した頃、アレク達は馬車に乗り込みゾルアの街へ向けて出発した。
ーーーーゾルア 聖ピウス正教会
「失敗しただと!」
「シギルの街の周辺に強力な結界が張られた模様です」
「ぐぬぬぬ」
「それより例の実験がうまくいきそうです」
「おお、それは誠か」
「眠りについていた1人が目を覚ましました」
「それで?」
「竜人の身体能力を遙かに越えているようです」
「よし、それでは軍部の連中に例の処置を施せ。これでこのいまいましいこの国も我が手中に入ったも同然」
カツン、カツン 地下へ続く階段に靴音が響く。
「ご機嫌はいかがですかな、次期伯爵」
気味の悪い青ぶくれの顔をゆがめて、ニッと笑う。
「言い分けないだろう、エミリオ司教。いったい私をどうするつもりだ」
唸るような声を出しているのは次期伯爵サイレスだ。鉄格子の向こうで壁に繋がれている。
「我が実験にご協力いただき感謝の念に堪えません。あなたに流れる竜人貴族の血で大きな成果を上げることが出来ました。ほら、これですよ」
そういって司教が見せたのは小瓶に入った赤い液体だった。
「今まで私達のやり方で仲間を増やそうとしたのですが、ことごとく失敗いたしました。けれど、この液体を飲ませたところ成功したんです。挨拶なさい、ザンク」
「お前は!」
「これはこれは次期伯爵、騎士隊長のザンクです」
「この裏切り者め!」
「あなたのお陰で私は生まれ変わる事ができました。ドラゴンヴァンパイアという新しい種族としてね」
「ドラゴンヴァンパイアだと!」
「この国の新しい盟主、ドラゴンヴァンパイアです。身体能力はこれまで以上に強くなりおまけに不死ときている。これから仲間の騎士達にこれを飲ませ、新しい種族に生まれ変わりますよ。国教を聖ピウス正教としてね」
「今のあなたに出来ることはせいぜい我々のためにその貴族の血を提供して頂くことですが。が、まあ他の貴族家の奴らも提供してくれることになるんでしょうが」
アハハハハと大笑いをして司教と共に地下牢からでていった。
「くそう」繋がれている鎖がジャラリと音を立てた。魔力封じの腕輪をしているため竜体にも変身できない。暗闇と絶望の中で彼は何を考えているのか。目だけがギラギラと光っていた。