100. ザカリア伯爵領の闇 ③
「そうなると、ゾルアの街は完全に教会に抑えられているということか」
「行方不明になった者達の家族や知人はどうしているのか?」
「訴え出ても誰も対応してくれないと言うことでした」
「ところで君は何故、街のことにそんなに詳しいんだ」
「実は僕の専属メイド、ミルっていうのですけれどよく街に出かけた時の話をしてくれて・・。彼女の兄が警備の兵士をしていたんですが、その、痛み止めの薬を使いだした頃からおかしくなって・・・。ある日、その兄がミルを教会に連れて行って、それきりミルは帰ってきませんでした。そしてその兄も姿を見かけることはなくなりました」
「僕は気になったので、夜、教会の様子を見に行ったのです。そうしたら・・・」
ヒースは明らかに怯えた目でアレクを見た。
「どうした?何を見たんだ?」
「聖騎士といわれている人が女の人の首筋に噛みついて血を啜っていたんです。女の人は青い顔をして、多分、死んでしまったんだと思います。僕、怖くて一目散に邸に帰って来ました」
「それからは、怖くて。お母様に話したら、この街をすぐ出なさいと隣村に行く荷馬車に僕を隠してくれて。丁度、僕が街を出た頃、お父様が教会に捕まったと聞きました」
「血を啜っていただと?そいつらは人間ではないのか?そんな化け物聞いたことがないぞ」
「いえ、あります」急にエルが声をあげた。
「恐らく、それはヴァンパイアではないかと」
「ペンダントの記憶の中に血を啜る者がいました。でも彼らが・・・」
「ヴァンパイアってこの世界にはいないと思っていたんだが」
「ペンダントの記憶では、シン・サクライが彼らの真祖だと。でも彼自身は血を啜ってはいなかったようです。確か、血を啜っていたのはコウモリに変身できる彼の部下だったはず」
「シン・サクライは黄金郷へ旅立ったはずでは」
「もうこの世界に彼はいないと思います。でもどうして聖ピウス正教の聖騎士なんかになっているのでしょう?」
「何か訳がありそうだな。しかし、厄介だな。ヴァンパイアとは」
「ねえ、そんなにヴァンパイアって厄介なの?」セイガが不思議そうに首をかしげる。
「俺も詳しくは知らないが、身体能力が素晴らしく高く、夜目が効く。そしてコウモリに変身できるんだ。上位種だと、アイ・レイドといって目だけで相手の体を拘束することも出来る」
ーーかつて地球で読んだ漫画に書いてあったな。
「へえ。でもさ、シン・サクライが真祖ならばエルも関係あるんじゃない?」
皆が一斉にエルを見た。