√9=3 謎エネルギー
思えばこれまで、魔術は多少触れてきたものの、魔力自体について考えたことはなかった気がする。
《魔力知識》:魔力についての知識。
俺の半端な知識では、魔力の正体に辿り着くことはないだろうから、知識スキルでショートカットといこう。
数度の体験を経ても慣れない、記憶が植え付けられるような感覚に伴って、魔力が何なのかを理解していく。
いや……これ……なんか……説明がとても長々としているんだが?
スキルの説明に対して長すぎる内容は、その殆どが証明や魔力を使えるようにする方法についてのもので、普通に魔術を使うならば関係しないことなので、今は省略する。
魔力の正体についてだけ、ざっくり要約して整理していこう。
まずそもそも、この世界にあるものは全てエネルギーとして表せる。熱や電気だけでなく、重さや硬さも、空間ですらエネルギーとして表現される。
しかしながら、様々な形態を持つように見えるエネルギーも、この世界にあるものは全て同じ一方向を向いているらしい。ここでいう方向というのは、ものの例えみたいなものであって、上下左右みたいな感覚で理解できるものではないそうだが。
エネルギーにもいくつかの向いている向きがある、または向きを持たないエネルギーがあるが、それらはこの世界では観測できず、干渉することもないという。
だがもしも、それらの方向の違う力の向きを変えて、この世界と同じ方向にできるとしたら?
その力が即ち、魔力のことである。
というのを知ったところで、別に魔術が上手くなるわけではないのだが……ん?
さて、唐突だがここでスキルツリーというシステムを振り返ってみよう。スキルツリーは、名前の通り木の枝葉が広がっていくような見た目をしている。根元の部分、基礎や前提となるスキルを取っていけば、応用や上位のスキルを手にすることができる。
今まで俺は、魔力が何かを知らずに、仮想領域に魔術式を書き込んで魔術を使っていた。そうなると魔術が発動する時に、コストとして必要な魔力は勝手に用意されていたわけだ。
いわば自動的に発動されていたのだが、魔力について知ることで、手動で魔力を操作できるようになるスキルが解放された。
つまり俺は、今まで魔術に不可欠な魔力操作というものに、全く触れずに魔術を極めようとか言っていたわけだ。
はずかち。
《魔力操作》:魔力を集め、操作するスキル。
このスキルも同じものが多数存在する。《魔力の器》や《筋力増強》等と同じように、重ね取りができるタイプだな。
早速一つ取得して、どんなもんか確かめてみよう。
操作、操作……おう、成程?
魔術やスキルを使う時の、体内の何かを削る感覚があった。今の多分、魔力が外に吹き飛んでいったな。
上手く使うには、魔力を感じ取れるようにならないといけなさそうだが。
《魔力感知》:魔力を感じ取れるようになる。
これで上手くいくかな?
取得した瞬間、今までにはなかった“第六感”的なものが生えてきた。これが魔力か。
例えるならば、瞼の裏を見るような、飛蚊症の黒いものが目の前を飛んでいくが目で追えないような、そんな感じ方をしている。
身体と重なったところに何かがあるような感覚である。
これを《魔力操作》で動かすようにイメージすれば……
成功した。魔力が吹き飛んで無駄に消費することもなく、身体と重なっているのを更に重ねたり、逆に全身と満遍なく重ねたりできる。
ただ、魔力はどうも不安定なものなのか、頑張って操作しようとしても霧散することもある。常に保有する魔力が漏れ出るような感じだ。これ、感知能力が優れた生物やセンサーには気づかれてしまいそうじゃないか?
どうにかしようと悩んでいると、かなり前に取った《魔力吸収》のことを思い出した。俺の周りの空中に対して使用すれば……
空に散っていこうとする魔力を、体内に格納することに成功した。いいね、ステルス性能が上がった。これを応用すれば、魔力のロスを減らせそうなので、偶然の発見ではあるが有用である。
更に《魔力吸収》自体、前に使った時の五倍くらいは吸えるようになった。食事ができない時も、多少は耐えられるようになったかな。
いやあ、今日は様々な進歩があったな。魔術、魔力についての探求が着実に進んだので、更に突き進んでいこう。
いや、スキルについても謎が沢山あるな。記憶に無いことをワンクリック程度の手間で定着させるとか、どうやったらできるんだろうか?
《魔力吸収》も、操作では回収しきれなかった魔力を簡単に取り返して見せた。《魔力操作》を複数取得すれば、同じことができるようになるのだろうか。
魔術のスキルに関しては、取得せずとも魔術式を組み立てられるようになるから、同じように考えるなら、《体力補填》も《抗重力》も操作によってできるのかもしれないな。
この辺の問いは、√systemとは何なのか?を突き詰めれば、いずれ分かるのだろう。
とりあえず今日は、寝ることにしよう。






