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転生転移ってありふれてんのかな……  作者: 十二
第一章 竜と成る
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√5 肉!肉!肉!肉!


 木の上を超えるか超えないか、といった程度の高さを、すーっと滑るように飛ぶ。視線は常に、木々の切れ目から見える地面を捉えていた。

 あれからかなり飛行を練習したので、今日を生きるための糧を得ようと、狩りを決行している。


 狙うのはウサギやシカなどの草食獣である。


 草食動物といえば、目が顔の横側についているので視野角が広いそうだ。

 しかし、上空はどうかな?と考えて、まるで猛禽類のように、急降下から打撃を与えようと企てた。


 とはいえど、野生動物の色合いが地味なのもあって、発見するのは困難を極める。何かが動いたと思っても、すぐに見失ってしまう。


 ん?何か派手な色合いのものが見えたぞ?


 近くに寄って、空中で減速して目を凝らす。


 長細い、イネ科の葉っぱに掴まっている、これまた長細い身体。二対の翅を持った、コバルトブルーの胴体と、エメラルドグリーンの目。


 そこにいたのは、一メートル以上もあるでっかいトンボだった。


 でけええぇ?!


 まずもって、太古の地球にはメガネウラという大きなトンボのような虫が生息していた。しかし、一メートルを超えるほどではなかったはずだ。

 確か酸素濃度が高かったから、そこまで巨大化したのだったか。この世界の大気はどうなっているのだろうか。


 ぶうぅぅぅーーん、と重厚な翅音が響き渡る。ホルンのようにも聞こえるその音が鳴る度に、かなりの距離を移動していた。


 瞬く間に去っていった。うん……あれとは戦いたくないわ。まだ空中戦はできそうにないし、勝ったとして昆虫を食うのは抵抗感が強いぞ。


 それに、食糧を得るために一々格闘してたら、非効率的だろう。もっと弱々しい動物を見つけたい。







 森を観察していて、いくつか考えていたことがある。

 この森の生態系についてだ。


 まず、オオカミや巨大昆虫がいるのはこの目で何度か見た。そして、食われた跡のあるウサギとシカを発見した。リスやネズミのような齧歯類もいるようだ。

 鳥類は小さな虫を食べる種類を確認した。

 滝から伸びる川には魚もいる。川沿いでは熊を見た。


 これらについて、捕食者のサイズは大型が多く、非捕食者は大体小さかった。偶然かもしれないが、今のところはその傾向にある。


 で、俺は小型の獲物をチマチマ獲るだけでは効率が悪い。

 道中で木の実をつまんだりしたが、収支を黒字にするほどカロリーは高くなさそうだった。

 魔力を得るには、量も質も重要そうだ。


 狙い目は、鳥とシカだな。割と可食部が多い。魚も結構良さそうだった。ただ、魚については競争相手が熊なので避けたい。











 森を眺めること暫し。目の端に何か動くものを捉えた。


 それの真上に素早く移動する。真上は基本的に死角になるから、不意打ちするためには丁度いい場所だ。


 動くものの正体は、ダチョウに似た、走ることに特化した鳥類だった。俺には気付いていない様子だ。


 機会をじっと待つ。確実に一撃で仕留めるために。


 行動を観察して、不意打ちできそうな隙を見つけた。この鳥は、シャコに似た虫のような生物を主食としているのだが、捕食にかける時間が長い。

 勿論他の捕食者の存在に気付けば、自慢の脚力で逃げ切れるようだった。


 だが、頭上の俺には気付いていない。


 中途半端にダメージを与えて逃すのが一番の骨折り損だからな。チャンスは逃さない。


 翼を調整して、《抗重力》を切る。重力に引かれて、頭から降下する。


 獲物との距離がみるみる縮まっていく。

 狙うのは長い首だ。脊椎を折れば、脳と身体の接続が切れることによって、身体の動きが止まる筈だ。


 風を切る音で、異常に気付いたようだ。シャコ虫を啄いていた顔を上げるが、致命的に遅れている。


 ナイフのように鋭い爪の生え揃った俺の腕が、頼りない太さの鳥の首に食い込む。


 ごきん、と骨の折れる手応え。


 俺は、鳥の胴体をクッションにして着地し、反射で暴れる首の折れた肉体を抑え込んだ。


 魔力がもう残り一割くらいしかないので、一旦ここでコイツを食おう。経験値も入った筈だ。


 正直に言うと、今俺は、とてもとても腹が減っている。動物を殺傷したことはないために、殺害を忌避する人間的な理性を、ドラゴンの本能で叩き伏せて狩りを決行した。

 そのテンションのまま、俺は獲物を食らう。思った通り可食部が沢山、飢えて《体力補填》で乗り切っていた腹が満たされる。


 うん、不味い。なんというか、とても固いし生臭い。繊維をブチブチ噛みちぎりながら、そう思う。

 野生だし、草食でもない動物の肉だから当たり前だが……


 とはいえ、生まれてから初めての食糧だ。文句などありはしない。


 カラカラの《魔力の器》に、少し魔力が注がれる。消化吸収によって作られた魔力だろう。

 あの滝の周辺の植物から、《魔力吸収》で最低限の魔力を用意してから獲物を探す……というのを繰り返し、ようやくありつけた食事だ。

 何も得られるままに日が暮れると、暗さでまともに行動できそうになかった上に、体力も魔力も限界だったので本当に危なかった。


 ああ、今から、睡眠時の安全も考えなくてはならない。


 夜闇に紛れてやってくるのは、腹を空かせた獣だと相場が決まっているからな……

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