#1 オオワシと転移者とクマと。
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#本筋から離れたストーリーです
俺、春日部大志。気がついたら、森の中にいたんだ。
自然っていいよな、俺はよく川釣りとか行くんだ。大体キャッチアンドリリースなんだけど。でも、こんなに鬱蒼とした森は入ったことがないかな。
「どこだよ、ここ……」
スマホは当然圏外。時計はAM一時になっているが、木々の合間からほんのわずかに木漏れ日が降ってくるから、時間もおかしくなってるんだろう。
流石に酒の勢いでこんなところには来ないと思うんだよ。それくらいの信用は自分に持てる。
ていうか、植物も虫も全部見たことないし。確実に日本じゃないってこんなところ!
誰か、俺に何が起こったのか教えてくれよ!
その呼びかけが通じたのか、それは分からないけど。
スキルツリーなんていう人知を超えた代物が、俺の前に現れたんだ。
俺、ゲームはあんまりやったことないんだよなー。
昔っからゲームとか玩具はなかなか買ってもらえなかったし。最近は遊ぶ余裕もないくらい忙しくて、新しく買った竿も一回も使ってなかったような……
……やめよう。それより、スキルツリーについてだよ。
学校でクラスメートが熱く議論を交わしていたのを、チラッと聞いたことがあるなあ、こういうの。
ビルドがナンタラって言っていたのは覚えている。手広くすると、器用貧乏になるからってヤケに極振り?ビルドを推していたタカシは元気にしてるかな……
ダメだ、それしか印象に残っていない。
色々な項目があって目移りしてしまうが、よく見たら経験値的なのが必要で何も取れないし。
元の場所に帰るヒントを探そうと思ったのに、もう諦めかけていたその時。
《接木苗》というスキルの説明を見て、俺は何かどうしようもないことに巻き込まれたのだと、そう理解した。
物語の主人公なら、元に戻る方法を探すために奮起するか、いっそこの世界で過ごす決意くらい固めてしまうのかもしれない。
でも俺はそうじゃない。
何をすれば良いか、ちっとも分からないんだ。
こんな森の中に放り出されるんじゃなくて、村や街に転移したとしても、それは同じだったと思うんだ。全てのことを俺が判断してやらなくちゃいけないなんてこと、今まで一回も経験したことがない。
俺はこれから生きようとするなら、人の住むところを探すなりすべきだ。でも、それってどこにあるの?
そう考えると、何かが起こるまで、ここで待っているのが最善にも思えてしまったくらいだ。
例えば、生きるのに必死になるような危険な出来事が。
俺は異世界に来ての第一歩を、可能な限り素早く、そして静粛に踏み出した。
何か大きなものが、こちらに近づいてきていたんだ。自分でも信じられないくらいに、恐れを感じていた。
隠れなきゃいけない。下草が沢山生えて、俺の身体を隠すくらいの場所が良い。
息を潜める。俺はここにはいない、ここにはいない。
草木にでもなったつもりで、静かに横たわっていた。念仏でも唱えたら助からないかな。声を出したら襲われてホトケになりそうだけど。
のそりと木々の合間から現れたのは、クマだった。
ある日森の中くまさんに、ということで。
目が合った。
俺死んだかも。
「ゴオオォア!!」
「ああああああああぁぁぁあ!!??」
丸太のようなクマの腕が、一瞬前に寝転がっていた地面に叩きつけられる。無様に転がって回避した。
えぇ、クマっていきなり襲ってくる感じだっけ?!もっと警戒心とかないのかな?!
縮こまってたから小動物にでも見えた可能性はあるね!畜生め!あ、クマは畜生だから悪口にならねぇや!
冗談かましてる場合じゃないんだよ、逃げるんだよ!
人間はよく走るけども、現代の人間で生存の為に走るというのは中々ないんじゃないかな?!
「誰か、助けて下さあああああああぁぁぁあい!!!!」
そう、俺にできるのは逃げて助けを求めることだけ。
ここから助かるには、クマを撒くか撃退するかしかないが、自力じゃどっちも無理。
森が入り組んでいて、狭いところを選んで走っているからギリギリ追いつかれていないけども、平地だったらもう追いつかれて、八つ裂きにされていただろう。
情けないし、望みは薄い。
でも、いざ死を前にすると、生きたいという気持ちが湧き上がってきたんだ。
奇跡でも何でも起これ!俺に都合の良いことは何でもだ!
そう祈るも、祈り忘れがあったらしい。
俺は足をもつれさせてしまった。転んでしまった。
俺がミスをしないという祈りも追加しておかなければならなかった。
そもそも、何に祈っていたんだったか?
俺は十分に頑張った。それが報われないのは、何かに裏切られたような気持ちになってしまうよな。
でも、俺のことだから理不尽さが強まるだけで、案外みんなこうなのかもしれない。
うつ伏せに倒れたのを、寝返りを打って仰向けになる。
天を仰げば、その上にいるかもしれない神か仏に中指を立ててやった。
獣の巨体が、俺に影を落とす。
風がいくつか吹いた気がした。
俺が見ている空に、二筋の黒い線が引かれる。
「は?」
クマの眉間と鼻に、矢が刺さっていた。
身体を起こす。振り返る。
「あ?ギャーギャー叫んでたのはお前か?」
バンダナを巻いた凶相の弓を持った男が、そこにいた。
それも猛禽の翼が生えている。
「……おい、死んでんのか?」
俺は天を仰いで言った。
「生きてるッ!!!!!!!」




