第一章 鏡
……もう時間が無い。
俺達四人は男子トイレの小さな鏡の前に並んで立つ。
その四人の間に風見がちょこん
と立っている。
一番左端で映る俺。相変わらず、鏡の中の俺は朝と同じ、黒い虎。……制服も中々似合うなこいつ。
そして、鏡の中には右から灰色の狼、紺色の熊、白いライオンの獣人が、それぞれ並んでいた。
みんなその体躯に見合った俺と同じ制服を着ている。
俺達を映し出す鏡の中には、風見以外の人間は居なかった。
……何も起こらなければ良いが。
「風見、何か見えるか?」
早速俺は風見に問い掛ける。
ヤバい、2時間目開始まで40秒。
「…………何も見えないよ」
俺達は一斉に安堵の溜息を吐いた。
「……でも」
ん?
「…………なんかここ動物臭い」
これはヤバイ。
☆ ☆ ☆ ☆
ギリギリセーフでチャイム着席を遂げた俺達は、それぞれに危機感を募らせていた。
『動物臭い』
あの場で俺達はトイレの異様な臭いしか感知していなかった。
よって、動物臭いのは……俺達だ。
授業が全て終わり、俺達は昇降口から一緒に出て、チャリ置きまでその事について議論した。
「誰か犬猫飼ってるか?」
俺の問いに、藍琉と遥霞は首を横に振る。
「俺ん家飼ってるけど外だぜ」
……なら、何で風見は動物臭いだなんて言ったんだ。
「僕達に変化が現れてるのかも」
「藍琉、お前もそう思うか?」
……クソっ、動物臭いまま学校なんて通いたくは無いぞ。
「まぁ明日になれば何かが変わるかも知れない。今は待とうよ」
遥霞は俺達をなだめ、今日の予定を俺達に聞いた。
「じゃ、今夜はみんなでレベ上げだね!5時半にレオンベルガー像の前で!」
身体に異常が起ころうとも、俺達はネトゲをやり続けるだろうな。