第一章 疑問
その疑問とは。
「俺達が獣人として鏡に映った姿を、ゲームをやっていない他の奴が見たら見えるの?」
……成る程。
関係者にのみ見えるのであれば、何かが起こったときに巻き込まれるのは俺達だけの可能性が高いかな。
「……確かに気になる所だな。試してみようぜ!」
「おい奏江、もし見えた場合の対処は考えなくても良いのか?」
「ん?どー言う事だ、虎獅」
全く。
俺達の中で一番馬鹿なのはやはりこいつのようだ。
「詰まり、簡単に言うと。
他人に見せる→鏡に獣人が映る→そいつはどんな反応をするか分かったもんじゃない、だ」
とんだ一大事にならないとも限らないって事だな。
「あぁー……そうか」
「ん~、それは確かに」
疑問を述べた遥霞ですら頭を抱える始末。
「……じゃあ口数の少ない人、日頃反応の薄い人で試してみたら?」
藍琉はたまにいいアイディアをくれる。たぶんこの中で一番頭がキレるんじゃないかな。
結果、藍琉の提案は採用された。
「へぇ。口数の少ない奴、ねぇ。風見はどうだ?」
俄然乗り気になってきた奏江は、先程までの暗い雰囲気を吹き飛ばした。
中々良いかもしれない。
そいつに獣人なんて見えなければそれで良い。
「「良いんじゃね?」」
と遥霞&俺。
「藍琉は?良いか?」
「うん。僕も風見君なら大丈夫じゃないかなって思ってた」
☆ ☆ ☆ ☆
ターゲットは風見雷藤【かざみらいどう】
クラス一……いや、校内一無口なちょっと暗い奴。
風見は授業中以外は大抵読書で席を動かないため、誰か一人が連れて来なければならない。
四人で行けば何かを企んでいるかも知れないと思われるからな。
「虎獅、僕が風見君連れてくるから、みんなは見えた時の言い訳考えておいて」
「……いいのか、藍琉?」
俺は、藍琉も入学当初は暗い奴だと思っていた。
初めて打ち解けたのはあの1年の冬の時、ゲームの話でみんなが仲良くなってからだ。
口下手で、喧嘩なんかは御法度の藍琉だ。無事にあいつを引っ張って来る事が出来るのかが心配だが。
「風見君とは何回か喋った事があるんだ。……きっと来てくれるよ」
そう言ってどこか自信無さ気に、でもどこか自信に満ち溢れた藍琉を、俺達は男子トイレから見送った。
こんな事をしてはいるが、腕時計を確認すると、残り時間はもう2分も無い。
……資料室に長居しすぎたな。
「チラッと見せるだけで良いんじゃないか?それからダッシュで席に着こう」
そんな奏江に、そうだなと俺と遥霞は頷いて藍琉達を待った。
廊下から話し声がする。
「……で、何か見えても驚かないでね」
「…………うん」
でかしたぞ、藍琉!
男子トイレに入って風見を招き入れた俺達は、藍琉にグッジョブと親指を立てた。