第三章 宝探し
露店街へ近付くにつれて、パソコンの処理速度が落ちて来る。
それだけ人口密度が高いのだ。見渡す限りに、露店の看板、看板、看板。
露店とは、人によってはバザーなどと名を変える。
しかし、機能などはどこのゲームも代わり映えはしない。
昼間は露店で店を出して放置、夜は本格的に活動するって人が多いのだろう。
賢く軍資金を稼ぐには、最も手っ取り早い方法だとも言える。ただ、それが売れればの話だが。
その露店を漁る人……今現在活動中の人の方が圧倒的に少ないのは、今が昼時だからかもしれない。
俺達は、その圧倒的に少ない部類に入る。
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【PT】TIGER:来たぞー、何か探し物か?
【PT】Riou:あぁ、一番安い回復薬を探してるんだ。希望は単価15Gくらいだな
【PT】緋熊:ちなみにLv45以上の回復薬!
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ふむ……。そうとなれば俺も必要だな。
まぁ今はレベル上げは出来ないし、のんびり探し物も良いかも知れない。
希望単価が15Gで、Lv45以上の回復薬だなんてそうそう見つかる訳がない。
何故なら、その条件に見合うここの平均価格はせいぜい20Gだからだ。
それをこんな露店の中から探すのは、なんとかの山から針を見つけるのと一緒だと思う。
しかし、今は何となく暇だ。
付き合ってやっても良い、俺も少し安い回復薬を探さないとな。
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【PT】BEAR:先輩、見つかんなかったらどうする?
【PT】TIGER:つーかいくつ必要なんだ?
【PT】Riou:いっぺんに喋るな!見つからなかったら20Gのを買う、必要数は限らない!
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時折そんな会話を交わし、俺達は全員で回復薬を探すことになった。
まぁ、どうせ皆も探したい物はあっただろう、これはほんのついでだ。
当の俺はと言うと、実は探している物があった。
それは何か。ずばり付加効果つきでLv50、戦士用防具一式だ。
防具はそれぞれシリーズと呼ばれる物があり、それを一式揃えると、様々な恩恵が得られる。
例えば、戦士用初期防具のレザーシリーズ。
これは一式揃えると、HP+80、攻撃力+10……と、まぁ初期にしては良い効果が発動する。
シリーズによってそのオマケは変わって来るため、事前にWIKIなどで必要なシリーズを調べると良い。
しかし、そのシリーズも同じLv帯で三種類もあるため、探す方が困難だったり、見つからなかったりする事もしばしば……。
ボスドロップレア装備、生産装備、店売り(モンスタードロップ)の普通装備と、集める方の身にもなって欲しい。
ちなみに俺の探しているのはボスドロップのレア装備、猛破【もうは】シリーズだ。
その内また違うなんとか装備が出るんだろうな。ギルド装備シリーズとか。
頭の中を切り替えて、俺は宝(回復薬と装備)探しに没頭する事にした。
端から端まで一つ一つを覗いて行く。
……が、目的の物は一向に見つかりはしなかった。
必要な時に見つからず、不要な時にぼろぼろと……。全く、世の中呆れるほどに不親切である。
念のため皆にも、猛破シリーズを見かけたら声を掛けてくれる様に言ってある。
それでも、何の声もないのがまた寂しくなってくるのだ。
と、その時一般チャットによる会話がログに飛び込んできた。
一般チャットは、近くのプレイヤーと会話する時に多用される。
特徴としては、会話の内容が他人にも見える事など、時には周囲のプレイヤーを巻き込んだ大規模な会話に発展することもある。
その一般チャットで会話されていたのは、今話題の獣化についてだった。
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【一般】KEI:こん、えじさん今日何日目だっけ?
【一般】えじぷと:こん!俺は今日で4日目、左足まで来たよ
【一般】KEI:うわ、来てるね;;僕はまだ2日目だ~
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他愛ない会話ではある。
だが、周囲にいたプレイヤーは皆この会話に注目している事だろう。
何故なら、自分だけが獣化している訳ではないとの、安心感を得たいから。
かく言う俺も、その一人。
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【一般】KEI:そういえばさ、全身まで獣化したらどうなるのかな?
【一般】えじぷと:さぁ、どうだろうな。やっぱ自我無くなるとか、そういうオチじゃない?
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そこまでは俺も想定している事だ。他に何があると言うんだろう。
そこで、一般チャットを交わしていた彼らの間に乱入者が現れた。
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【一般】影狼:君ら二人、こんな所で物議かもしてるなら内緒でやってくれる?ログ流れるんだけど
【一般】えじぷと:なら一般チャットが見えないようにOFF機能使えばいいじゃないっすか?
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OFF機能とは、特定のチャットログを非表示に出来る、うるさい奴がいる時などに活躍する機能だ。
ログが流れるとは、チャットログと呼ばれる発言の履歴が、一定の発言を超えると消えてしまう事である。有益な情報がログ上にある場合、別のチャット機能で会話をしている場合、ログが流れてしまうのは好ましくない。
この時は、影狼……かげろう?さんの方が有利だろう。
何が有利か?正当性だ。
こう言った小競り合いは、至る所で展開される。
どちらか一方が立ち退く、もしくは折れなければ、際限なく続く。
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【一般】影狼:多分この辺りにいる人も一般はうるさいと思ってるよ
【一般】KEI:済みません・・・内緒でお話します
【一般】えじぷと:けい良いよ、向こう行こうぜ
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それを期に、二人の会話が表示されることは無かった。どこかへ行ったのだろう。
影狼さんは、どこへ行ったか知れたもんじゃない。
影狼さんの様に、他人の非をつく人は、このネット社会でも少ないのが事実だ。
それは、行動後に何をされるか分かったもんじゃないと言う、恐怖から。
もしくは、ただ面倒くさい、関係無いからと言う考えからの場合が多い。
俺は……ただ二人の意見を聞きたかっただけかな。
そうでなければ俺も影狼さんのように注意していたはずだ。